- Bunn(2019)は、FMSで危険が高いとされた群にけがが多いと報告しましたが、証拠の質は非常に低いと評価しています。
- Dorrel(2015)は活動的な成人で予測の精度を調べ、FMSによるけがの予測を支持しませんでした。
- Moore(2019)では年齢や競技によって関係が違い、Tomes(2020)の走力の結果も職業上の訓練に結びついたものです。
- Bahr(2016)は、危険が高い人だけに予防を行う方法が、全員に予防を行う方法より良いという介入研究がないと指摘しています。
初心者の体のチェックでけがは予測できるか|動きの評価テストとけがの研究
更衣室で着替えながら、始める前の体のチェックで付いた低い点数が気がかりです。これからミットに向かう支度をしていても、「けがをしやすい」という説明を思い出すと、この体で練習してよいのか迷います。動きの点数が低い集団でけがが多かった研究はありますが、その点数だけで初心者本人のけがを予測できるとは言えません。 点数が表すのは検査で行った動きの評価であり、これから起きるけがの確定ではありません。
動きの評価テスト(FMS)は、しゃがむ、片脚で立つなどの動きを点数で評価する検査です。点数を見れば体の準備がすべてわかるように感じられますが、研究では「低い群にけがが多いか」と「後でけがをする人を見つけられるか」を別に調べています。さらに、検査で人を選んで対策を変えた結果、けがそのものが減るかという問いも残ります。ボクササイズを始める場面では、低い点数への不安と、高い点数への安心のどちらにも、この違いが関わります。
要点
- Bunn(2019)は、FMSで危険が高いとされた群にけがが多いと報告しましたが、証拠の質は非常に低いと評価しています。
- Dorrel(2015)は活動的な成人で予測の精度を調べ、FMSによるけがの予測を支持しませんでした。
- Moore(2019)では年齢や競技によって関係が違い、Tomes(2020)の走力の結果も職業上の訓練に結びついたものです。
- Bahr(2016)は、危険が高い人だけに予防を行う方法が、全員に予防を行う方法より良いという介入研究がないと指摘しています。
FMSでけがを予測するには、集団の差だけでは足りない
「点数が低い人はけがをしやすい」という説明には、集団の傾向を述べる意味と、目の前の人の将来を言い当てる意味が混ざりやすくなっています。Bunn(2019)のメタ分析(複数の研究の結果をまとめて計算し直す方法)では、FMSで危険が高いと分類された人を、低いと分類された人と比べました。けがの相対危険(危険の倍率)は1.51で、推定の幅を表す95%信頼区間は1.35〜1.69でした。低い点数とけがの関係は認められましたが、著者は証拠の質を非常に低いとしています。
この結果は、検査を受けた人を点数で群に分け、その後のけがの起こり方を比べたものです。点数の低い群にもけがをしない人がいて、高い群にもけがをする人がいれば、群全体の差があっても個人の予測は外れます。検査で危険が高いと言われたことと、次の練習で手首や膝を痛めることは同じ情報ではありません。Bahr(2016)の批判的な総説は、けがをした人としなかった人の検査値が大きく重なる点を、予測の難しさとして挙げています。
検査値の重なりは、平均値だけを眺めていると見落としやすい問題です。両群の中心が離れていても、境目の近くにいる人を正しく分類できるとは限らず、境目を動かせば拾う人と見逃す人も変わります。集団の関係を見つける研究は、予測に使う候補を探す役割を持ちますが、個人を振り分ける道具としての成績は別に調べる必要があります。Bunn(2019)の群の比較とBahr(2016)の批判は、同じ点数に対して異なる段階の問いを扱っています。
けがをする人を拾える割合は低かった
Dorrel(2015)は、活動的な成人を対象とする研究をまとめ、FMSをけがの予測に使えるかを検討しました。感度(後でけがをした人を検査で正しく拾う割合)は24.7%、特異度(後でけがをしなかった人を低い危険と正しく判定する割合)は85.7%でした。けがをしなかった人を見分ける成績に比べ、けがをする人を事前に拾う成績が低かったのです。この結果から、高い点数を得たことを、けがを避けられる保証として受け取るのは不適切です。
同じDorrel(2015)の分析で、陽性的中率(危険が高いと判定された人のうち実際にけがをした割合)は42.8%でした。曲線下面積という、検査全体の当てる力を表す目安も0.587と低い値でした。著者は研究方法や統計上の問題も指摘し、FMSの予測の妥当性は支持されないと結論しています。危険が高いというラベルを、その人の将来のけがと同一視するには、検査の外れ方が大きすぎるという結果です。
Bunn(2019)はけがの起こる割合を群どうしで比べ、Dorrel(2015)は判定と実際のけががどれだけ一致するかを調べました。研究のまとめ方も評価する指標も違うため、前者の関係ありという結果で後者の精度の低さを打ち消せません。初心者が説明を受けるときに区別したいのは、次の表のような問いの違いです。Bahr(2016)は、予測の精度に加えて、判定後の対応がけがを減らすかまで確かめる必要を論じています。
| 問い | 比べるもの | 研究の答え |
|---|---|---|
| 点数が低い集団にけがが多いか | 危険が高い群と低い群の発生 | Bunn(2019)では多かったが、証拠の質は非常に低い |
| 自分がけがをするか当てられるか | 事前の判定と、その後のけが | Dorrel(2015)では感度が低く、予測の妥当性を支持しない |
| 判定に応じた予防でけがが減るか | 高い危険の人への予防と全員への予防 | Bahr(2016)は前者が優れるという介入研究の不足を指摘 |
成人選手の結果でも、競技が変われば関係は変わる
Moore(2019)は、動きの評価とその後のけがを追った前向き研究を集め、FMSの合計点について29本を分析しました。成人選手では、低い点数の人のけがのオッズ比(起こりやすさの比)は1.80、推定の幅は1.17〜2.78でした。一方、若年選手では1.03、推定の幅は0.67〜1.59で、はっきりした差はありませんでした。同じ検査名でも、年齢の異なる集団で同じ関係が出るわけではありません。
さらにMoore(2019)では、年齢だけでなく性別や競技の種類が、研究結果のばらつきの一部を説明していました。点数とけがの関係は多くの競技で小さく、ラグビー、アイスホッケー、アメリカンフットボールでは比較的大きい傾向でした。相手とぶつかり合う競技の選手が受ける負担と、運動としてミットを打つ初心者の負担は異なります。この分析の対象には、打撃系の格闘技や一般の初心者は含まれていません。
年齢が成人という共通点だけで、選手の結果を大人の初心者に移せるわけでもありません。検査を受けた後にどんな運動をし、どのようなけがを数えたかが、予測を使う場面と結びついているためです。点数を説明する側が「スポーツの研究」とだけ伝えた場合は、競技と対象者を確認すると、説明の範囲が具体的になります。Moore(2019)の結論は、すべての競技に共通する強い関係ではなく、年齢・性別・競技によって関係が変わるというものでした。
走る速さや体の柔らかさを足せば予測は確かになるか
FMS以外の体力テストにも、その後のけがとの関係を調べた研究があります。Tomes(2020)は軍・警察・消防の初期訓練に入る人を対象とした研究を集め、走るタイムを扱う7本をまとめました。タイムが遅い人を速い人と比べた相対危険は2.34で、95%信頼区間は2.02〜2.70でした。対象者は、体重を支えながら長い距離を移動する活動を繰り返す訓練に参加していました。
Tomes(2020)が強調したのは、走るテストが職業上の訓練内容と関係している点です。筋持久力のテストについては結果がはっきりせず、筋力や瞬発的な力を測るテストは研究が少ない状況でした。走るタイムと長距離の訓練中のけがが結びついても、ミット打ちの前に走力の合格線を設ける根拠にはなりません。運動で実際に求められることと、検査が測る能力の対応を欠いたまま、検査だけを増やす意味は乏しくなります。
体の硬さについては、van Dyk(2018)がカタールの男子プロサッカー選手で、シーズン前の太ももの裏と足首の柔らかさを測り、その後の太ももの裏の肉離れを追いました。肉離れは筋肉の線維が部分的に切れるけがで、けがをした群としなかった群の測定値の差は、太ももの裏で1.8度、足首で1.4cmと小さいものでした。曲線下面積は太ももの裏が0.52、足首が0.61で、将来の肉離れを見分ける力は低かったのです。著者は硬さを弱い危険因子としつつ、個人のけがを予測する実用的な価値は小さいとしています。
点数を上げることと、けがを減らすことは別の成果
点数とけがに関係があると聞くと、点数を上げればけがも減ると考えたくなります。けれども、点数が変わったことを示すだけの比較では、その後のけがが減ったかは判定できません。Bahr(2016)は、危険が高いと判定した人への対策を選ぶには、その選び方自体が役立つかを確かめる必要があると論じています。検査の合計点と、練習を休むようなけがの発生は、結果として別々に測る対象です。
Bahr(2016)の総説では、危険が高い人だけに予防を行うほうが、全員に同じ予防を行うより良いと支える介入研究は挙がっていません。介入研究とは、対策を実際に行い、その結果を比べる研究です。この指摘は、予防のための運動がすべて無意味という意味ではなく、検査で人を選ぶ手間が成果を増やすかという問いです。検査を行うこと、動きを練習すること、けがを減らすことの間に、それぞれ検証が必要になります。
点数へのこだわりが強くなると、痛みがあるのに動作を繰り返したり、低い点数だけを理由に運動全体を怖がったりする判断につながりかねません。これは検査の有害事象の発生率を示した研究結果ではなく、結果の使い方として避けたい例です。とくにチェックの動作で既に痛む人には、合計点を上げる目的で同じ動きを無理に反復する方法は向きません。Dorrel(2015)の低い感度と陽性的中率は、高い点数による過信と低い点数による決めつけの両方を見直す材料です。
最初の8週間は、点数と症状を別々に残す
事前のチェックを受けたら、結果表とは別に、練習を始めてからの経過を残す欄を用意します。期間は自分の記録の期間として最初の8週間とし、痛みは自分の物差しで0〜10の数字を使います。この期間や痛みの数は、FMS研究が定めた予防法や練習を許す境目ではありません。Moore(2019)などの前向き研究と同じく、最初の評価と後の出来事を別々に記す考え方を、自分の経過の整理に使います。
- 練習の後の出来事を残す。 最初の8週間は練習の後に、痛んだ部位、痛みの0〜10の値、練習を途中でやめたかを日付と一緒に書きます。Moore(2019)の研究が事前の点数と後のけがを別に追ったことにならい、元の点数をその日の症状の欄へ写すだけで済ませないようにします。痛みがあったという自分の記録と、医療機関でけがと判断された記録も欄を分けます。
- 指摘された動きの症状を見る。 週1回、チェックで指摘された動きを無理のない範囲で行い、動作名、痛む場所、0〜10の値を残します。van Dyk(2018)が柔らかさの測定と後の肉離れを別々に扱ったように、動く範囲が変わったことと痛みの有無を別に書きます。鋭い痛みや腫れが出たら反復を中止し、点数を上げるために動く範囲を押し広げません。
- 最初の状態を残して比べる。 最初の練習の前に、既に痛む場所と前のけがの部位を記して伝え、その後は練習後の同じ部位の痛みを0〜10で追記します。最初の8週間は、当初からの症状か、開始後に新しく出た症状かも記録します。これは前向きに経過を追ったMoore(2019)のように、後から最初の状態を思い出すだけにしないための記録です。
記録を続けて痛みがなかった場合も、それだけで検査の予測が当たったとは判定できません。反対に、けがが生じても、その出来事だけで点数の低さが原因だったとは決まりません。Bahr(2016)が問題にした予測と予防の成績を評価するには、対策の異なる群の比較が必要で、個人の経過だけではその比較を置き換えられません。
よくある質問
点数が低ければ、ボクササイズを始めないほうがよいですか
低い点数だけで開始を断念する根拠は弱く、点数とは別に、現在の痛みや以前のけがの状態を確認する必要があります。Bunn(2019)は低い点数の群にけがが多いとしましたが、証拠の質は非常に低いと評価しています。個人がどの動作をできるかという問いには、合計点だけでは答えが出ません。症状のある動作を点数向上のために繰り返す使い方は避けます。
高い点数なら、けがを心配しなくてよいですか
高い点数をけがが起きない保証にすることはできません。Dorrel(2015)では、後でけがをした人を事前に拾う感度が低く、判定から漏れる人がいました。合計点の良さと、今日の練習で痛みがないことは、別の時点の別の情報です。以前の結果が良くても、新しく出た痛みや腫れを結果表より軽く扱う理由にはなりません。
体が硬いと指摘されたら、まず柔らかくするべきですか
柔らかさの改善を、そのままけがの予防効果と考えることはできません。van Dyk(2018)の男子プロサッカー選手では、柔らかさと肉離れに弱い関係がありましたが、将来のけがを見分ける力は低い結果でした。これは硬さを測った研究であり、柔らかくする運動でけがが減るかを比べた試験ではありません。動きやすさが変わったことと、けがが減ったことは別々の成果です。
この記事の限界
動きの評価テストの研究は競技選手や活動的な成人、軍・警察・消防の訓練参加者を対象とし、測る運動や追跡条件が異なり、Bunn(2019)の関連の証拠も非常に低い質と評価されています。Bahr(2016)は予測と予防の条件を論じた総説であり、初心者に対策を試して有効性を測った研究ではありません。
チェックで痛みが出る、腫れる、以前に痛めた部位が再び痛む場合は、整形外科でその動作とけがの部位を伝えます。痛みがいつ始まり、練習前からあったか、練習後に現れたかも、合計点では表せない症状を説明する材料です。キックボクシングの初心者を対象に、開始前の動きの点数がその後のけがをどれだけ予測し、判定に応じた対策でけがが減るかを測る研究は、これからです。
参考文献
- Moore E. Factors Influencing the Relationship Between the Functional Movement Screen and Injury Risk in Sporting Populations: A Systematic Review and Meta-analysis. Sports Med. 2019;49(9):1449-1463.
- Bunn PDS. The association between the functional movement screen outcome and the incidence of musculoskeletal injuries: A systematic review with meta-analysis. Phys Ther Sport. 2019;35:146-158.
- Tomes CD. Ability of fitness testing to predict injury risk during initial tactical training: a systematic review and meta-analysis. Inj Prev. 2020;26(1):67-81.
- Dorrel BS. Evaluation of the Functional Movement Screen as an Injury Prediction Tool Among Active Adult Populations: A Systematic Review and Meta-analysis. Sports Health. 2015;7(6):532-7.
- Bahr R. Why screening tests to predict injury do not work-and probably never will…: a critical review. Br J Sports Med. 2016;50(13):776-80.
- van Dyk N. Hamstring and Ankle Flexibility Deficits Are Weak Risk Factors for Hamstring Injury in Professional Soccer Players: A Prospective Cohort Study of 438 Players Including 78 Injuries. Am J Sports Med. 2018;46(9):2203-2210.
汗が落ちる溶岩の床の上で、最初のジャブを構えてみる
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- 向く人: 運動から離れていて、構えとフォームから教わり直したい人
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よくある質問
点数が低ければ、ボクササイズを始めないほうがよいですか
低い点数だけで開始を断念する根拠は弱く、点数とは別に、現在の痛みや以前のけがの状態を確認する必要があります。Bunn(2019)は低い点数の群にけがが多いとしましたが、証拠の質は非常に低いと評価しています。個人がどの動作をできるかという問いには、合計点だけでは答えが出ません。症状のある動作を点数向上のために繰り返す使い方は避けます。
高い点数なら、けがを心配しなくてよいですか
高い点数をけがが起きない保証にすることはできません。Dorrel(2015)では、後でけがをした人を事前に拾う感度が低く、判定から漏れる人がいました。合計点の良さと、今日の練習で痛みがないことは、別の時点の別の情報です。以前の結果が良くても、新しく出た痛みや腫れを結果表より軽く扱う理由にはなりません。
体が硬いと指摘されたら、まず柔らかくするべきですか
柔らかさの改善を、そのままけがの予防効果と考えることはできません。van Dyk(2018)の男子プロサッカー選手では、柔らかさと肉離れに弱い関係がありましたが、将来のけがを見分ける力は低い結果でした。これは硬さを測った研究であり、柔らかくする運動でけがが減るかを比べた試験ではありません。動きやすさが変わったことと、けがが減ったことは別々の成果です。