- 脚の左右差とけがの関連は研究によって異なり、左右差だけで個人のけがを予測する根拠は弱い。
- 太ももの裏の筋力についても、関連を認めた研究と認めなかった研究がある。
- 筋力のアンバランスを改善した選手の成績は参考になるが、左右差だけを直した効果とは異なる。
- 差の割合は基準にする側で変わるため、元の測定値と症状を一緒に残す。
キックやパンチの左右差はけがのもとか|筋力の左右差とけがの研究
公園で軽く体を動かしていると、片脚では立ちやすいのに、反対の脚では揺れることに気づきます。いつもの構えを思い浮かべながら脚を見比べ、筋肉の付き方まで違うなら、この差を直さないとけがをするのかと気になります。左右差があるだけでけがの原因とは決められず、見た目をそろえることより、何を測った差なのかと痛みの有無を確かめることが先です。
キックやパンチには使いやすい側があり、構えの中でも左右が同じ動きをするわけではありません。けれども、動作のしやすさ、筋肉の大きさ、力を出す能力は、それぞれ違う性質です。片側が動かしにくいという感覚だけで、研究が測った筋力の差まで読み取ることはできません。
脚の左右差とけがを扱ったHelme(2021)の系統的レビュー、つまり条件に合う研究を集めて検討する方法では、関係がある結果とない結果が混在していました。対策を考える際には、左右差を測ること、後のけがを予測すること、差を縮めてけがを減らすことを順に確かめる必要があります。ここで扱うのは、そのうちどこまで研究で調べられているかと、自分の動きや症状を混同せずに記録する方法です。
要点
- 脚の左右差とけがの関連は研究によって異なり、左右差だけで個人のけがを予測する根拠は弱い。
- 太ももの裏の筋力についても、関連を認めた研究と認めなかった研究がある。
- 筋力のアンバランスを改善した選手の成績は参考になるが、左右差だけを直した効果とは異なる。
- 差の割合は基準にする側で変わるため、元の測定値と症状を一緒に残す。
筋力の左右差は、どこまでけがと関係するか
「左右がそろっているほどけがをしにくい」という説明は、わかりやすく聞こえます。しかし、左右差という言葉の中には、筋力の差、筋肉の大きさの差、動作を続けられる時間の差が入り込みます。Helme(2021)が集めたのは脚の働きの左右差とスポーツ中のけがに関する研究で、構えの外見が対称かどうかを採点したものではありません。パンチの動きが左右で違うという悩みを、この研究の結果と結びつけるには、まず測定対象の違いを押さえる必要があります。
Helme(2021)は31研究を検討し、統計的な関連なしが8研究、部分的な関連ありが10研究、関連ありが10研究と報告しています。証拠の質は中程度から低い水準と評価され、測り方をそろえた質の高い調査が必要とされました。この内訳からは、関連を認める報告だけを取り出すことも、関連がない報告だけで左右差を無視することも適切ではありません。集まった研究の結論自体が、同じ方向にそろっていないためです。
また、ある集団で差の大きい人にけがが多くても、目の前の人がけがをするとは限りません。Helme(2021)の検討は、脚の機能的な左右差が危険因子となる可能性を残しつつ、その根拠の質を問題にしています。危険因子とは、けがの起こりやすさと関係する特徴であり、それだけで原因が確定するという意味ではありません。研究の対象にはサッカー選手が多く、ボクササイズを始めた成人の構えやパンチの左右差を測った結果ではない点も、結論を使う範囲を狭めます。
同じ太ももの裏でも、予測できた研究とできなかった研究がある
Fousekis(2011)はプロのサッカー選手をシーズン前に調べ、その後の肉離れとの関係を追いました。肉離れとは筋肉の線維が部分的に切れるけがで、ここで注目されたのは太ももの裏の筋肉が伸ばされながら力を出す能力です。この能力の左右差がある選手では、差がない選手に比べ、太ももの裏の肉離れのオッズ比が3.88でした。オッズ比は起こりやすさを比べる指標で、実際にけがをした人数の割合がそのまま同じ倍率になるという意味ではありません。
Fousekis(2011)の95%信頼区間、つまり推定の不確かさを表す範囲は1.13〜13.23と広くなっていました。太ももの前の筋力の左右差では、オッズ比5.01に対し95%信頼区間は0.92〜27.14で、差がない場合の値をまたいでいます。見かけの倍率だけなら前側の方が大きくても、こちらの関係ははっきりしていません。筋肉の部位を変えただけでも、同じ強さの結論にはならなかったのです。
一方、Opar(2021)は6研究1100人をメタ分析、つまり複数の研究の結果をまとめて計算し直す方法で検討しました。シーズン前に、膝を支点として体を前へ倒す動きに抵抗するノルディック・ハムストリングという運動中の筋力を測った研究が対象です。その後に太ももの裏の肉離れをした人としなかった人で、筋力の絶対値、体重あたりの値、左右差のいずれにも差がありませんでした。Fousekis(2011)とOpar(2021)は結論が食い違っており、選手の集団や測定課題の違いを残したまま読む必要があります。
| よく言われること | 研究で得られた結果 | 比べた相手 | 対象と測定 |
|---|---|---|---|
| 左右差があると肉離れが増える | 関連を認めた(Fousekis、2011) | 太ももの裏の筋力に左右差がない選手 | プロサッカー選手、伸ばされながら出す筋力 |
| 左右差で次のけががわかる | 左右差に差がなかった(Opar、2021) | その後に肉離れをしなかった人 | シーズン前のノルディック・ハムストリング中の筋力 |
| 差を直せば予防になる | 改善した群はアンバランスのない群と差がなかった(Croisier、2008) | 筋力のアンバランスがない選手 | プロサッカー選手、左右と前後の筋力比 |
改善した選手のけがが少なくても、左右差だけの効果ではない
差を見つけることよりも、差を縮める練習に意味があるかが気になるところです。Croisier(2008)はプロのサッカー選手の筋力を機械で測り、その後の太ももの裏の肉離れを追いました。シーズン前に測定した687人のうち、追跡がそろったのは462人で、肉離れは35件でした。検査した全員の経過がそろっているわけではないことも、この研究を読む際の条件です。
Croisier(2008)では、筋力のアンバランスを改善しなかった選手は、アンバランスのない選手より肉離れが多く、相対危険は4.66、95%信頼区間は2.01〜10.8でした。相対危険は、比べる集団に対するけがの危険の倍率を表します。鍛えて測定値が正常になった群では相対危険1.43、95%信頼区間0.44〜4.71となり、アンバランスのない群との明確な差がなくなりました。著者は、筋力の状態を整えることが筋肉のけがを減らすと結論しています。
ただし、Croisier(2008)が扱ったアンバランスには、左右だけでなく太ももの前後の筋力比も含まれています。改善した選手をくじ引きで選んだ無作為化比較試験でもないため、鍛え方や取り組み方の違いが結果に関わった可能性が残ります。左右の見た目をそろえる練習、弱い側だけの追加練習、前後の筋力を整える練習を、同じ介入として扱うことはできません。改善群に見られた結果は前後の比を含む筋力評価に基づいており、片側のパンチを増やす方法の予防効果を測ったものではありません。
筋肉の大きさは、原因より負荷の跡を表す場合もある
片側だけ筋肉が大きいと、その形自体が体を傷めるように感じるかもしれません。Engstrom(2007)は、片腕で速い球を投げるクリケットの思春期の投手と、比較する水泳選手を磁気共鳴画像検査(MRI)で追いました。調べたのは腰方形筋という腰の横の筋肉で、投手では投げる腕の側が大きくなっていました。力を測る検査ではなく、筋肉の形とその後の腰の骨の損傷を見た研究です。
Engstrom(2007)では、症状を伴う片側の腰椎の疲労骨折が起きた投手は11人で、いずれも投げる腕と反対側に生じていました。疲労骨折は、繰り返す負荷によって骨に損傷が生じる状態です。筋肉の左右差による予測の曲線下面積は0.89、95%信頼区間は0.79〜0.98でした。曲線下面積とは、けがが起きる人と起きない人を検査値で見分ける力の目安で、この研究では左右差と骨の損傷に強い関係がありました。
ここで著者が挙げた説明は、左右差そのものが骨を傷めたという単純な話ではありません。速い投球の繰り返しによる負荷が、筋肉を片側で大きくし、同時に骨にも負担をかけた可能性があります。もし左右差が負荷の跡なら、筋肉の大きさだけをそろえても、骨に加わる力が変わるとは限りません。Engstrom(2007)の結果は、思春期の投手が反復する投球と腰の損傷の関係であり、キックの構えの左右差を矯正した結果ではありません。
差の割合だけを目標にすると、計算方法に振り回される
左右差を数字にすると客観的に見えますが、数字の作り方にも選択が入ります。Parkinson(2021)は筋力の左右差の計算方法を調べ、12通りの指標のうち、基準とする脚の選び方による問題を受けなかったものは4つだけだったと報告しました。大きい値を分母にするか、小さい値を分母にするかで、同じ測定結果から得る差の割合が変わります。左右の元の値を捨てて割合だけを残すと、後から測定結果を比べ直しにくくなります。
Parkinson(2021)は、左右差を大きいとする境目にも問題を指摘しています。よく使われていた10〜15%という境目には、適切な根拠が伴っていない場合がありました。これは、その範囲を超えた人が全員けがをするという線でも、それ未満ならけがをしないという線でもありません。どの集団の、どの課題を、どの式で比べたかを省いて、共通の合格点にすることは難しいのです。
さらに、差が縮まる経過にも違いがあります。弱い側の記録が伸びた場合と、強い側の記録が落ちた場合では、左右の隔たりが小さくなっても、体の働きが同じように変化したわけではありません。痛い側を無理に動かして数字だけを合わせる方法は、今ある症状を無視することにもつながります。Parkinson(2021)が求めたのは、集団や測り方に応じた計算方法と境目であって、すべての運動者を同じ割合に収めることではありません。
自分で試す記録は、左右の値と症状を並べる
以下は、自分の変化を見るために4週間、週1回行う記録の案です。この期間と頻度は予防効果を確かめた研究の処方ではなく、自分の記録の期間として設けます。Parkinson(2021)の基準側による計算の違いを取り入れ、差の割合だけを結論にしない形にします。痛みがすでにある人は、差を測り切るために動作を続ける対象から外します。
左右の記録と計算式をセットにする
ここで得られる秒数や回数は、立つ・しゃがむ動作の記録であり、機械で測る筋力そのものではありません。計算結果が違うことを確かめる目的は、自分の左右差を危険と判定することではなく、割合が式に左右されると実際の記録で知ることです。Parkinson(2021)の検討でも、筋力差の計算方法と異常とする境目は一様ではありませんでした。
よくある質問
構えが片側なら、反対側の練習を増やすべきですか
けが予防のために反対側の本数を増やすと決める根拠は、この研究群では得られていません。Croisier(2008)が評価したのは太ももの前後の比も含む筋力の状態で、構えを左右同じ時間にする方法ではありません。痛みがないのに筋肉の見た目だけをそろえようとする前に、気になる差が大きさなのか、動作のしやすさなのかを明確にする方が、研究で測った内容との混同を避けられます。
左右の記録が近ければ、けがの心配は少ないですか
記録が近いことだけを練習継続の許可にはできません。Opar(2021)では、後に太ももの裏の肉離れをした人としなかった人で、事前に測った筋力の左右差に差がありませんでした。左右が同じでも両側とも動かしにくい場合はあり、反対に差があっても痛みなく動ける場合もあるので、左右の近さと現在の症状は別の欄で捉える必要があります。
見た目の筋肉の差が、痛みの原因なのでしょうか
見た目だけでは、筋肉の差と痛みの原因のつながりを決められません。Engstrom(2007)の投手の研究では、反復する投球の負荷が筋肉の左右差と骨の損傷の両方に関わる可能性が論じられました。差がある場所と痛む場所が同じとは限らず、実際にこの研究では大きい筋肉の側と骨を傷めた側が反対だったため、左右の外見だけから痛みの場所を推定するのも適切ではありません。
この記事の限界
左右差の研究対象はプロサッカー選手や思春期の投手に偏り、脚の筋力や腰の筋肉の形の結果を、成人初心者のパンチに広げるには隔たりがあります。Helme(2021)が評価した証拠の質は中程度から低く、Opar(2021)の結果も含め、測定課題をまたいで予測の確かさをそろえられる段階ではありません。
片側だけの痛みや腫れが続くとき、動作が引っかかるときは、整形外科でいつから・どの側が・どの動作で困るかを伝えてください。見た目の差だけでなく、症状の経過と左右別の動作記録が診察の材料になります。左右差を直す練習で成人のキックボクシングやボクササイズのけがが減るという考えには、無作為化試験による裏付けが必要です。
参考文献
- Helme M. Does lower-limb asymmetry increase injury risk in sport? A systematic review. Phys Ther Sport. 2021;49:204-213.
- Fousekis K. Intrinsic risk factors of non-contact quadriceps and hamstring strains in soccer: a prospective study of 100 professional players. Br J Sports Med. 2011;45(9):709-714.
- Opar DA. Is Pre-season Eccentric Strength Testing During the Nordic Hamstring Exercise Associated with Future Hamstring Strain Injury? A Systematic Review and Meta-analysis. Sports Med. 2021;51(9):1935-1945.
- Croisier JL. Strength imbalances and prevention of hamstring injury in professional soccer players: a prospective study. Am J Sports Med. 2008;36(8):1469-1475.
- Engstrom CM. Quadratus lumborum asymmetry and L4 pars injury in fast bowlers: a prospective MR study. Med Sci Sports Exerc. 2007;39(6):910-917.
- Parkinson AO. The Calculation, Thresholds and Reporting of Inter-Limb Strength Asymmetry: A Systematic Review. J Sports Sci Med. 2021;20(4):594-617.
汗が落ちる溶岩の床の上で、最初のジャブを構えてみる
- 向く人: 相手と打ち合わずに、ミットとサンドバッグで汗をかきたい人
- 向く人: 運動から離れていて、構えとフォームから教わり直したい人
- 向かない人: スパーリングや試合で自分の強さを試したい人
- 向かない人: 手首や肩、腰の痛みで医師から運動を止められている人
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よくある質問
構えが片側なら、反対側の練習を増やすべきですか
けが予防のために反対側の本数を増やすと決める根拠は、この研究群では得られていません。Croisier(2008)が評価したのは太ももの前後の比も含む筋力の状態で、構えを左右同じ時間にする方法ではありません。痛みがないのに筋肉の見た目だけをそろえようとする前に、気になる差が大きさなのか、動作のしやすさなのかを明確にする方が、研究で測った内容との混同を避けられます。
左右の記録が近ければ、けがの心配は少ないですか
記録が近いことだけを練習継続の許可にはできません。Opar(2021)では、後に太ももの裏の肉離れをした人としなかった人で、事前に測った筋力の左右差に差がありませんでした。左右が同じでも両側とも動かしにくい場合はあり、反対に差があっても痛みなく動ける場合もあるので、左右の近さと現在の症状は別の欄で捉える必要があります。
見た目の筋肉の差が、痛みの原因なのでしょうか
見た目だけでは、筋肉の差と痛みの原因のつながりを決められません。Engstrom(2007)の投手の研究では、反復する投球の負荷が筋肉の左右差と骨の損傷の両方に関わる可能性が論じられました。差がある場所と痛む場所が同じとは限らず、実際にこの研究では大きい筋肉の側と骨を傷めた側が反対だったため、左右の外見だけから痛みの場所を推定するのも適切ではありません。