- Beranek(2022)が打つ形を止めて調べた比較では、拳・掌底・肘のうち肘の接触面が最小
- Baumbach(2014)は、滑液包の腫れで発熱・皮膚の傷・局所の温度差を感染を疑う所見として提示
- 注射の評価は総説間で食い違い、Kim(2016)の比較試験でも治療法による改善割合の差は明瞭でない
- 練習の本数と打った後・翌朝の痛みや膨らみを記録し、腫れや熱を伴う日は打撃を中止
肘で打つ技を習う大人の肘|キックボクシングの肘の打撃と肘頭のけがの研究
夜の台所で作業台に肘をつくと、練習中には意識しなかった肘の先の痛みに気づきました。ミットへ肘を当てた動きを思い返しながら、触れると痛いこの膨らみも、練習に慣れれば気にならなくなるのかと手を止めます。肘は当たる面が狭い部位ですが、打った後の腫れを単なる慣れの問題と決めず、皮膚の傷や熱を伴う変化として見る必要があります。 肘の骨が硬いという感触と、その表面を覆う組織が打撃に耐えられるかは別の問題です。
肘打ちは、肘を曲げて肘の先や前腕の骨の部分を相手の方向へ当てる技で、運動として習う場合はミットなどを相手に練習します。肘の先の骨を肘頭と呼び、その表面には皮膚との滑りを助ける滑液包という袋があります。この袋に炎症が起き、液がたまって膨らむ状態が肘頭滑液包炎で、練習後に気になる肘の先の腫れを考える際の題材になります。打つ形を調べた研究では当たる面積が、患者を調べた研究では感染の有無や腫れの経過が扱われており、ミットの手応えだけでは見落とす点があります。
要点
- Beranek(2022)が打つ形を止めて調べた比較では、拳・掌底・肘のうち肘の接触面が最小
- Baumbach(2014)は、滑液包の腫れで発熱・皮膚の傷・局所の温度差を感染を疑う所見として提示
- 注射の評価は総説間で食い違い、Kim(2016)の比較試験でも治療法による改善割合の差は明瞭でない
- 練習の本数と打った後・翌朝の痛みや膨らみを記録し、腫れや熱を伴う日は打撃を中止
キックボクシングで肘打ちが痛いとき、当たる面で何が違うか
拳を握って打つパンチと、曲げた肘を当てる技では、標的に触れる体の部分が違います。Beranek(2022)は、男性38人と女性38人、計76人で、拳・掌底・肘による打撃の形を作って比較しました。掌底とは手のひらの付け根の部分で、研究では右腕の各部位を止めた姿勢で読み取り、当たる面積を調べています。男女とも掌底の面積が最も大きく、肘が最も小さいという結果でした。
同じ大きさの力が加わると仮定すれば、面積が狭いほど、その面に力が集中します。ただしBeranek(2022)が測ったのは静止した形の面積で、ミットを打った瞬間の力や速さ、滑液包に加わる圧力そのものではありません。肘の当たる面が狭いという結果から、初心者がどの強さまで打ってよいかや、何本で腫れるかまでは言えません。著者も、得られた面積を今後の打撃の圧力評価に使う可能性を述べています。
この違いは、肘を硬い打撃面として捉える説明の裏側に、皮膚や滑液包への接触があることを思い出させます。ミットの表面に当たる肘の形と、家事の最中に台へ触れた肘の感覚は、同じ部位を別の場面で意識するきっかけになります。拳で打ったときの手応えを、そのまま肘で再現することが目標になるわけではありません。Beranek(2022)の比較が示す形の特徴は、男女とも肘の接触面が掌底より狭いという点です。
肘の先が膨らむときは、骨だけでなく袋を見る
肘の先に丸い膨らみがあると、骨そのものが変形したように感じるかもしれません。肘頭滑液包炎で問題になるのは、骨の表面にある袋の炎症や液の貯留です。Baumbach(2014)は、肘頭と膝の前の滑液包炎を扱った文献レビューで、細菌による感染性のものが約1/3、細菌によらないものが約2/3と報告しています。この割合の対象は滑液包炎の患者で、肘打ちを練習した人全体ではありません。
Baumbach(2014)がまとめた患者では、男性が80%を占め、中心となる年齢は40〜60歳でした。肘頭と膝の前の滑液包炎を合わせた年間発生率は、少なくとも10万人あたり10人とされています。これらは、どのような患者が診療の対象になっていたかを示す数字です。キックボクシングを始めた女性の練習の本数や、ミットの硬さ別の腫れの数を表す集計ではありません。
練習後の膨らみを考える際には、当たった場所の変化に加え、細菌が関わる腫れを区別する必要があります。痛む場所が肘の先にまとまっているか、皮膚に傷があるか、周囲が赤いかは、単に腕全体が疲れたという感覚とは違う観察です。Baumbach(2014)の治療の流れも、まず感染性か非感染性かを見極めることを土台にしています。袋が膨らんでいるという見た目だけで処置を決めるのでなく、感染の分類を踏まえて手術以外の治療を進める提案です。
よく言われる肘の強さと、研究が測った結果
「肘は硬いから強く打てる」「袋の液を抜けば早く戻れる」といった説明では、打撃面の特徴と治療後の経過がひと続きになりがちです。実際には、接触面積、症状が引くまでの時間、最終的な改善割合は、それぞれ別の評価項目です。Beranek(2022)は面積を、Kim(2016)は非感染性の肘頭滑液包炎に対する治療を比べています。同じ肘の話でも、比較相手を添えると、結果が答えている問いがはっきりします。
| 肘の打撃・治療への見方 | 接触面と治療成績 | 打つ部位・治療法の比較 | 計測参加者と患者 |
|---|---|---|---|
| 肘は狭い場所に力を集める | 肘の接触面は最小だった(Beranek、2022) | 拳・掌底 | 打つ形を静止して作った男女 |
| 液を抜く処置なら結果が良い | 治療法間の改善割合に明瞭な差はなかった(Kim、2016) | 圧迫と薬、穿刺、穿刺と注射 | 非感染性の肘頭滑液包炎の患者 |
| 注射をすれば早く練習へ戻れる | 注射は結果を改善せず危険を伴うとのまとめだった(Sayegh、2014) | 注射を含む治療とそのほかの治療 | 肘頭滑液包炎の患者 |
| 手術なら腫れを確実に解消する | 手術群では合併症が多かった(Sayegh、2014) | 手術以外の治療 | 感染性・非感染性の肘頭滑液包炎の患者 |
Shirani(2010)の格闘技選手の調査では顔の切り傷が69.2%、ムエタイ選手では93.3%と報告されていますが、これは受ける側のけがで、肘打ちを原因と特定した数字でも打つ側の肘の腫れの数字でもありません。打撃によって相手に生じた損傷と、当てた自分の肘に生じた症状は、調べる場所も経過も異なります。フィットネスでの関心は、相手への強さを増すことより、ミットを打った後に自分の肘がどう変わるかにあります。Kim(2016)の治療比較でも評価の中心は袋の腫れの改善で、ミットを強く打てるようになったかという成績ではありません。
注射と手術の評価には食い違いがある
Baumbach(2014)は、文献をもとに診療の手順を組み立て、非感染性の腫れで運動の要求が高い人には注射も選択肢としました。一方、Sayegh(2014)の系統的レビュー、つまり研究を一定の基準で集めて評価するまとめでは、非感染性の腫れへの注射は結果を良くせず、危険を増やすとしています。前者は診療の流れを提案するレビュー、後者は治療成績と有害事象を整理するレビューです。注射については同じ方向の結論ではなく、運動を続けたいという希望だけで処置を選ぶ根拠にはなりません。
Sayegh(2014)は29研究、1278人をまとめ、手術では手術以外の治療より臨床的な改善が得られにくく、合併症が多かったと報告しています。合併症とは治療に伴って起きる別の問題で、このまとめでは液が出続けることや滑液包の感染も含まれます。もとの研究は比較群のない研究が中心で、治療の選ばれ方や患者の重さが結果へ影響する余地があります。強い処置ほど有利だという説明に対し、手術後の問題も実際に集計されていた点が重要です。
Kim(2016)は、非感染性の肘頭滑液包炎の患者90人を、圧迫と薬、穿刺、穿刺と注射に無作為に割り付けました。無作為化比較試験とは、くじ引きのように組を分けて方法を比べる試験で、穿刺は針で袋の液を抜く処置です。注射を加えた組では症状の改善までの時間が短かった一方、4週間での改善割合には方法間で明瞭な差がありませんでした。受診先で確かめる点は、期待する利益が改善までの時間なのか改善割合なのか、そしてSayegh(2014)が取り上げた合併症をどう考えるかです。
赤み・熱・傷がある肘は、打って慣らす対象にしない
肘の先が痛いだけなのか、皮膚が赤く熱を持ち、傷もあるのかで、練習を続ける判断は変わります。Baumbach(2014)は、37.8℃を超える発熱、滑液包の上の皮膚で2.2℃を超える温度差、皮膚の傷を、感染性の滑液包炎を疑う所見として挙げました。体全体の発熱と、肘の表面の温度差は別の測定で、熱い感じがすることだけで数値へ置き換えるものではありません。この研究はそれらを感染を疑う手掛かりとして扱っており、診察ではほかの所見や袋の液の検査と合わせて判断します。
赤みや熱、傷、発熱がある人は、ミットへの肘打ちで様子を試す場面ではありません。押して痛む膨らみがある場合も、同じ場所へ打撃を繰り返す練習は休みます。感染が疑われるときにはほかの技へ切り替えて練習を続けず、練習自体をやめて受診につなげます。Baumbach(2014)の分類では感染の有無が治療の出発点なので、肘の表面の変化を「運動後だから」と一括りにしないことが大切です。
症状が始まってからの長さも、診療で役立つ情報です。Kim(2016)の試験では、4週間で改善しなかった患者は治療前の症状期間が6週、改善した患者は4週で、症状が長く続いていたことが改善しない結果と関連していました。これは、痛みのある肘をその期間まで使ってよいという待機の目安ではなく、すでに症状がある患者の治療経過を比べた結果です。Kim(2016)が調べた要因の中では、治療前の症状期間だけが4週間までの改善不良と関連していました。
本数・痛み・膨らみを残す練習の手順
ここで設ける2週間は自分の記録の期間で、肘打ちを続ける効果を確かめた試験の期間ではありません。肘打ちは1ラウンドあたり左右10本までとする記録上の上限を置き、痛みや膨らみがない日に、すでに習ったミット練習の範囲で行います。この本数を肘の安全性が保証された量とは扱わず、症状が出た時点で終えます。観察する項目には、Baumbach(2014)が感染を疑う所見とした皮膚の傷や熱を含めます。
- 練習前には左右の肘の先を見て、赤み・皮膚の傷・膨らみの有無を日付とともに書きます。熱を持つ感じや発熱があれば、打って確かめず練習を中止します。この中止の目安は、Baumbach(2014)が感染を疑う所見として挙げた皮膚の傷と熱に基づきます。
- 打った後と翌朝に、肘の先の痛みと膨らみの気になり方を、それぞれ0〜10で記録します。左右の本数を添え、膨らみは痛みが弱くても有無を別に書き、赤みや熱が出た日はそこで打撃をやめます。Baumbach(2014)が感染の評価で扱った局所の皮膚所見を併記することで、痛みの点数だけに判断を寄せずに済みます。
- 膨らみが出たら発見日を書き、肘打ちを休んだ日も症状の変化を残します。Kim(2016)は治療後4週間の経過を評価し、治療前の症状期間と改善の関係を調べているため、受診時には発症からの経過がわかる記録を渡します。4週間はその試験の評価期間であり、受診を待つ期間や練習再開の日付ではありません。
点数はほかの人との比較ではなく、自分の同じ部位の変化を追うために使います。押して痛む・膨らむだけの日も肘打ちは休み、発熱や赤みなどがなければ肘を当てない別の技へ切り替える選択になります。記録から処置を自分で決めるのでなく、痛みと腫れが始まった時点を曖昧にしないことが目的です。Kim(2016)の試験は感染性の滑液包炎を除外しており、感染を疑う皮膚の変化が出た場合は同じ経過観察の対象にしません。
よくある質問
肘の骨が硬ければ、強く当てても痛めないのですか
骨の硬さだけでは、その表面にある皮膚や滑液包の状態まで判断できません。Beranek(2022)は静止した打撃の形で肘の接触面が小さいことを示し、Baumbach(2014)は肘の先の袋の腫れを診療の対象として扱っています。肘を当てた後に先が膨らむ、赤くなる、熱を持つという変化は、強く打てた手応えとは別に見ておく必要があります。
液を抜いてもらえば、すぐミット打ちへ戻れますか
Kim(2016)が調べたのは非感染性の肘頭滑液包炎への治療で、ミット打ちへの復帰時期を比べた試験ではありません。穿刺を含む治療と圧迫と薬による治療の間で、改善割合に明瞭な差はなかったという結果です。腫れを小さくする処置の話と、再び肘を当てる運動を始める話は異なり、受診先では練習で肘へ衝撃が加わることまで伝える必要があります。
痛みが軽くても、肘の先が膨らんでいたら休むべきですか
痛みが軽いことだけを理由に、膨らんだ部位へ肘打ちを続ける判断は避けます。Baumbach(2014)は感染の評価で皮膚の傷や熱を重視しており、痛みの強さだけを基準にはしていません。膨らみがある日は肘打ちを休み、赤みや熱、傷、発熱もある場合には練習自体をやめ、腫れの原因を診察で確かめることが先になります。
この記事の限界
肘打ちの検討に用いた対象は打つ形を静止して測った男女や滑液包炎の患者であり、治療の比較には小規模な試験と比較群のない研究が含まれます。肘の先が膨らむ、赤い、熱を持つ、皮膚に傷があるときは整形外科か皮膚科で、いつから、左右どちらに、何本の肘打ちの後で変化が出たかを伝えてください。発熱を伴う場合は練習を中止したうえで速やかに受診し、皮膚の傷と腫れの経過も伝えます。接触面を測った研究は肘打ちの力や速さを測っておらず、治療研究も肘打ちを続けながらの回復や長期の再発を検証したものではありません。運動として肘打ちを習う大人の肘頭に、ミットの硬さや打つ本数によってどれほど痛みと腫れが生じるかを追った結果は、ここで検討した研究ではまだ報告されていません。
参考文献
- Beranek V. Analysis of the Contact Area for Three Types of Upper Limb Strikes. J Funct Morphol Kinesiol. 2022;7(2):50.
- Shirani G. Prevalence and patterns of combat sport related maxillofacial injuries. J Emerg Trauma Shock. 2010;3(4):314-7.
- Baumbach SF. Prepatellar and olecranon bursitis: literature review and development of a treatment algorithm. Arch Orthop Trauma Surg. 2014;134(3):359-70.
- Sayegh ET. Treatment of olecranon bursitis: a systematic review. Arch Orthop Trauma Surg. 2014;134(11):1517-36.
- Kim JY. A Randomized Trial Among Compression Plus Nonsteroidal Antiinflammatory Drugs, Aspiration, and Aspiration With Steroid Injection for Nonseptic Olecranon Bursitis. Clin Orthop Relat Res. 2016;474(3):776-83.
汗が落ちる溶岩の床の上で、最初のジャブを構えてみる
- 向く人: 相手と打ち合わずに、ミットとサンドバッグで汗をかきたい人
- 向く人: 運動から離れていて、構えとフォームから教わり直したい人
- 向かない人: スパーリングや試合で自分の強さを試したい人
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よくある質問
肘の骨が硬ければ、強く当てても痛めないのですか
骨の硬さだけでは、その表面にある皮膚や滑液包の状態まで判断できません。Beranek(2022)は静止した打撃の形で肘の接触面が小さいことを示し、Baumbach(2014)は肘の先の袋の腫れを診療の対象として扱っています。肘を当てた後に先が膨らむ、赤くなる、熱を持つという変化は、強く打てた手応えとは別に見ておく必要があります。
液を抜いてもらえば、すぐミット打ちへ戻れますか
Kim(2016)が調べたのは非感染性の肘頭滑液包炎への治療で、ミット打ちへの復帰時期を比べた試験ではありません。穿刺を含む治療と圧迫と薬による治療の間で、改善割合に明瞭な差はなかったという結果です。腫れを小さくする処置の話と、再び肘を当てる運動を始める話は異なり、受診先では練習で肘へ衝撃が加わることまで伝える必要があります。
痛みが軽くても、肘の先が膨らんでいたら休むべきですか
痛みが軽いことだけを理由に、膨らんだ部位へ肘打ちを続ける判断は避けます。Baumbach(2014)は感染の評価で皮膚の傷や熱を重視しており、痛みの強さだけを基準にはしていません。膨らみがある日は肘打ちを休み、赤みや熱、傷、発熱もある場合には練習自体をやめ、腫れの原因を診察で確かめることが先になります。