- 柔らかさは蹴るときの脚の開きと関係しますが、蹴りの評価と肉離れの予防は別の評価項目です。
- サッカー選手では、柔軟性と肉離れの関係が測り方や競技水準によってそろっていません。
- ダンサーでは、開脚などのゆっくり伸ばす動きでも太ももの裏の急なけがが報告されています。
- 過去の肉離れは重要な危険因子で、柔らかさが戻っていることだけを高さを上げる根拠にしないことが大切です。
- 前屈の距離と蹴った後の張りを別々に記録し、鋭い痛みを伴う動作は中止します。
高く蹴るキックを体が硬い大人が練習するとき|太ももの裏の肉離れと股関節の柔らかさの研究
冬の朝、前屈して床へ手を伸ばすと、届かない指先より先に太ももの裏の張りが気になります。高く蹴る練習に向けて、この硬さを先に取り除くべきか迷うところです。Askling(2002)の学生ダンサーの調査では、急な太ももの裏のけがの88%がゆっくりした柔軟練習中に起きており、高い蹴りに備えて無理に伸ばすことにも注意が要ります。 これはけがを経験した人がその場面を振り返った割合で、柔軟練習をした人のうちけがをする割合ではありません。
ハイキックは、頭の高さを狙う回し蹴りです。運動として習う大人にとっては、名前の高さへ急いで届かせるより、自分の脚がどの動きで張るかを知ることが先になります。柔らかさとけがを調べたサッカーの研究には、硬い人にけがが多いという結果と、関係が見られなかったという結果の両方があります。柔軟性だけを練習開始の合否にせず、過去に太ももの裏を痛めた経験、伸ばす場面、ミットの高さを合わせて検討するのが、この研究群から導く練習の出発点です。
要点
- 柔らかさは蹴るときの脚の開きと関係しますが、蹴りの評価と肉離れの予防は別の評価項目です。
- サッカー選手では、柔軟性と肉離れの関係が測り方や競技水準によってそろっていません。
- ダンサーでは、開脚などのゆっくり伸ばす動きでも太ももの裏の急なけがが報告されています。
- 過去の肉離れは重要な危険因子で、柔らかさが戻っていることだけを高さを上げる根拠にしないことが大切です。
- 前屈の距離と蹴った後の張りを別々に記録し、鋭い痛みを伴う動作は中止します。
キックボクシングのハイキックと柔軟性はどう関係するか
高い位置へ脚を運ぶ場面では、股関節が動く範囲と、実際の蹴りの中でその範囲を使うことが関わります。股関節の可動域とは、太ももの骨が骨盤に対して動ける範囲のことです。ハムストリングは太ももの裏の筋肉を指し、肉離れは筋肉やその周辺の組織が伸ばされるなどして傷つくけがです。脚を上げられる高さを考える際にも、関節の動く範囲と、この筋肉の痛みを同じものとして扱わないことが大切です。
Hölbling(2023)は、技能の異なる武道家33人が二段の横蹴りをする様子と、止まった姿勢で股関節を曲げる・横に開く柔軟性を調べました。蹴っているときの脚の開きは、静止した状態の股関節の開きと相関し、その係数は0.37〜0.69でした。相関とは、ある値が大きい人ほど別の値も大きい傾向を表し、柔らかさを増やした結果として蹴りが改善したことまで表すものではありません。この実験で測った技は横蹴りで、回し蹴りのハイキックと同じ軌道ではない点も押さえる必要があります。
同研究は、脚の開きと専門家による蹴りの評価にも関係があると報告しています。つまり柔軟性は、見た目だけの要素ではなく、競技動作の評価に関わる要素です。一方、測った中心は動作と関節の範囲であり、練習中に太ももの裏を痛めた人数ではありません。Hölbling(2023)が評価したのは、止まった姿勢の柔らかさと、速い横蹴りの中で使う脚の開きでした。
体が硬いほど肉離れが多いという結果はそろっていない
Witvrouw(2003)は、ベルギーの男性プロサッカー選手146人の柔軟性を競技シーズン前に測り、その後の筋肉のけがを追いました。太ももの裏を痛めた31人は、けがをしなかった人より、けがの前からその筋肉の柔軟性が低いという結果でした。後から痛い人の体を測っただけでなく、けがが起きる前の状態を調べている点が、この研究の特徴です。測定には角度計を用い、筋肉を伸ばしたときの関節の角度を評価していました。
対してvan Doormaal(2017)は、男性アマチュアサッカー選手450人を対象に、長座体前屈とその後の肉離れを調べました。長座体前屈は脚を前へ伸ばして座り、指先を前へ運ぶ測り方で、太ももの裏だけでなく腰や背中の動きも含みます。追跡中に太ももの裏を痛めたのは23人でしたが、年齢と以前のけがの影響を調整すると、柔軟性との明確な関係は見られませんでした。同じサッカーでも、プロとアマチュア、関節の角度と指先の届く距離という違いがあります。
| 柔軟性と肉離れへの見方 | けが・蹴りの開きとの関係 | 柔軟性の測り方と比較 | 競技と習熟度 |
|---|---|---|---|
| 硬い人ほど肉離れをする | Witvrouw(2003)では、けがをした群の事前の柔軟性が低かった | けがをしなかった群、角度計による測定 | 男性プロサッカー選手 |
| 前屈が深ければけがを防げる | van Doormaal(2017)では、柔軟性とけがに関係が見られなかった | 年齢と過去のけがを調整、長座体前屈 | 男性アマチュアサッカー選手 |
| 柔らかい脚ほど良い蹴りになる | Hölbling(2023)では、静止時の股関節の開きと蹴り中の開きが関連した | 静止した姿勢と二段の横蹴り | 技能の異なる武道家 |
前屈の記録を安全判定にしない理由
指先が以前より先へ届くようになれば、前屈という動作の変化は捉えられます。しかし、その距離に合格線を引いて高い蹴りを許可するには、距離と蹴りのけがの関係を調べる必要があります。van Doormaal(2017)の結果は、男性アマチュア選手の長座体前屈を、肉離れを予測する指標として支持しませんでした。
ゆっくり伸ばす動きでも太ももの裏を痛める
勢いよく脚を振ったときだけが、太ももの裏を痛める場面ではありません。Askling(2002)が学生ダンサーに過去のけがを尋ねた調査では、急なけがの88%が開脚などのゆっくりした柔軟練習中だったと回答されています。強い動きの最中だったという回答は12%でした。反動がないことと、組織を強く伸ばしていないことは別で、ゆっくりした動きでも伸ばす程度が問題になりえます。
この調査は本人の記憶をもとにしており、すべての痛みをその場で診断した記録ではありません。それでも、柔軟練習をけがの準備運動としてだけ捉えると、そこで起きた痛みを見落とすという具体的な問題を示しています。蹴っている最中の張りだけでなく、蹴る前の開脚でどこが痛んだかも練習の経過に含まれます。Askling(2002)が挙げた場面は、素早いキックではなく、開脚などでゆっくり柔らかさを広げる動作でした。
Askling(2007)は、ゆっくり伸ばして初めて太ももの裏を痛めたプロダンサー15人の経過を追っています。元の競技水準に戻るまでの期間は中央値50週で、範囲は30〜76週でした。中央値は、期間を短い順に並べたときの中央の値であり、全員がその期間で戻ったという意味ではありません。ここでの「戻る」は日常生活が送れることではなく、けがの前のダンスの水準を取り戻すことです。
この経過を知る意味は、痛みの見た目だけで復帰の早さを決めないことにあります。Askling(2007)では、診察や画像の指標と復帰までの期間に明確な相関が見られませんでした。比較相手を置かない少人数の症例の集まりですが、伸ばす動作によるけがの中に、競技復帰まで長い時間を要する型が含まれていました。
柔らかさより先に確認したい過去の肉離れ
体が硬いという自己評価には、前屈で届かない、開脚が苦手、動き始めに張るなど、異なる感覚が含まれます。これに対して、以前に太ももの裏を痛めた経験は、肉離れの研究で繰り返し扱われる項目です。Green(2020)の系統的レビューとメタ分析は、研究を一定の基準で集め、結果をまとめて計算したもので、78研究の71,324人の選手を対象としていました。強い危険因子として挙がったのは年齢と過去の肉離れで、柔軟性の低さはその中心には入りませんでした。
Green(2020)では、肉離れの既往がある場合のリスク比は2.7、最近の肉離れでは4.8でした。リスク比は、比較した群に対してけがの起こりやすさがどれほど違うかを表す値です。これは主に走る球技などの選手をまとめた数で、キックボクシングを始める女性の発生率を表すものではありません。過去のけががある人を、前屈が深くなったという理由だけで、けがをしたことのない人と同じ扱いにすることには慎重さが要ります。
練習に向かない状態として優先したいのは、今も太ももの裏に痛みがある、伸ばすと鋭く痛む、以前に痛めた場所が蹴るたびに気になる場合です。その状態で高さを試すことは、柔軟性を測る作業から、痛みのある組織に負荷を加える作業へ変わります。過去のけがを確認するときも、単に経験の有無だけでなく、最近の出来事か、練習を休むほどだったかという経過が手掛かりになります。Green(2020)は、とくに最近の肉離れを、過去の肉離れ全般とは別の危険因子として集計しています。
ストレッチで柔らかくすることと、けがを減らすこと
柔らかさを増やす方法を知りたいとき、ストレッチの研究は参考になります。Rudisill(2023)は、参加者を無作為に組へ分けて方法を比較する試験を集め、肉離れの予防と危険因子への働きかけを評価しました。静的ストレッチ、つまり伸ばした姿勢を保つ方法による柔軟性の改善は、平均差10.89度、95%信頼区間8.92〜12.86度でした。信頼区間は、研究から推定した差の不確かさの幅を示すもので、個人がどこまで柔らかくなるかの範囲ではありません。
Rudisill(2023)では、静的ストレッチの柔軟性への効果は、比較されたほかの方法より一時的でもありました。伸ばした直後に脚が上がりやすくなった感覚と、その状態が保たれることは異なります。さらに、柔軟性の変化を測る試験と、実際の肉離れの件数を数える試験では、答えている問いが違います。ストレッチによる改善は、同レビューでは柔軟性という項目で示されています。
同じRudisill(2023)のまとめで、肉離れの発生を56.8%〜70.0%減らしたのは、筋肉を伸ばしながら力を出す伸張性の筋力練習でした。これは、伸ばした姿勢を保つだけのストレッチとは違う負荷のかけ方です。複数の試験での減少幅であり、初心者が高く蹴る練習に加えた場合の効果を約束する数ではありません。脚を高く上げるための準備を検討するときには、同レビューが柔軟性の改善をストレッチに、けがの減少を伸張性の筋力練習に結びつけた点が重要です。
高さを急がず、前屈と張りを別々に記録する
以下は、自分の記録の期間を4週間とした手順です。週1回の測定や胸の高さから始める設定は、研究で安全性が実証された練習量ではなく、変化を見比べるための編集上の目安です。研究から取るのは、長座体前屈という測り方、ゆっくり伸ばす場面でのけが、過去の肉離れの有無という観察条件です。
よくある質問
前屈で爪先に届かないとハイキックは練習できませんか
前屈の到達距離だけを参加条件にする根拠は、この研究群にはありません。van Doormaal(2017)では長座体前屈と肉離れに関係が見られず、Hölbling(2023)が蹴りで評価したのは股関節の開きでした。前屈の距離は自分の変化の記録にし、練習ではミットを低くして、脚を運ぶときの張りを別に確かめます。頭の高さという技の名前に合わせるために、痛みを伴う開脚を続ける必要はありません。
反動をつけず、ゆっくり伸ばせば安心ですか
ゆっくりという速度だけで続ける判断はしないほうがよいでしょう。Askling(2002)では、学生ダンサーが急に太ももの裏を痛めた場面として、開脚などのゆっくりした柔軟練習が多く挙げられました。反動をつけないことに加え、伸ばす程度やその場の痛みも見る必要があります。鋭い痛みが出たら、柔らかくなっている途中だと捉えて押し広げず、その動作を中止します。
昔の肉離れは、今は痛くなくても記録に入れますか
今の痛みと別に、以前に痛めた側や動作を記録に残す意味があります。Green(2020)では、過去の肉離れがその後のけがと関係し、とくに最近の肉離れも重要な項目でした。前屈が以前の距離に戻ったことと、高い蹴りを繰り返したときの状態は同じ情報ではありません。以前のけがの経過を添えることで、蹴った直後や翌朝の張りが、過去に痛めた場所と重なっているかを見直せます。
この記事の限界
高い蹴りの検討に用いた対象は、男性サッカー選手の柔軟性、学生やプロのダンサーのけが、武道家の横蹴りが中心で、回し蹴りを習い始めた成人女性の肉離れを継続して調べた結果は含まれていません。蹴った瞬間や伸ばしたときに太ももの裏に「ぶちっ」とした痛みが出た、内出血が広がる、歩くと痛む場合は、練習を止めて整形外科を受診する目安です。その際は、いつから、どの動きで、脚のどの場所に症状が出たかを伝えると、ダンサーの研究で扱われたような伸ばす動作のけがも含めて経過を説明できます。体が硬い大人が高い蹴りを続けた際の肉離れの発生率を測った研究はまだ無く、けがの頻度や危険因子を考える手掛かりはサッカーやダンスなどの他競技にとどまります。
参考文献
- Witvrouw E. Muscle flexibility as a risk factor for developing muscle injuries in male professional soccer players. A prospective study. Am J Sports Med. 2003;31(1):41-6.
- Askling CM. Acute first-time hamstring strains during slow-speed stretching: clinical, magnetic resonance imaging, and recovery characteristics. Am J Sports Med. 2007;35(10):1716-24.
- Askling C. Self-reported hamstring injuries in student-dancers. Scand J Med Sci Sports. 2002;12(4):230-5.
- Hölbling D. A kinematic model for assessment of hip joint range-of-motion in fast sport movements using spreading angles. Sports Biomech. 2023;22(10):1243-1255.
- van Doormaal MC. No Relationship Between Hamstring Flexibility and Hamstring Injuries in Male Amateur Soccer Players: A Prospective Study. Am J Sports Med. 2017;45(1):121-126.
- Green B. Recalibrating the risk of hamstring strain injury (HSI): A 2020 systematic review and meta-analysis of risk factors for index and recurrent hamstring strain injury in sport. Br J Sports Med. 2020;54(18):1081-1088.
- Rudisill SS. Evidence-Based Hamstring Injury Prevention and Risk Factor Management: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Am J Sports Med. 2023;51(7):1927-1942.
汗が落ちる溶岩の床の上で、最初のジャブを構えてみる
- 向く人: 相手と打ち合わずに、ミットとサンドバッグで汗をかきたい人
- 向く人: 運動から離れていて、構えとフォームから教わり直したい人
- 向かない人: スパーリングや試合で自分の強さを試したい人
- 向かない人: 手首や肩、腰の痛みで医師から運動を止められている人
このサイトはオンザショア立川店の運営者が制作しています。オンザショア立川店は立川駅から徒歩1分で、床は溶岩プレートです。
よくある質問
前屈で爪先に届かないとハイキックは練習できませんか
前屈の到達距離だけを参加条件にする根拠は、この研究群にはありません。van Doormaal(2017)では長座体前屈と肉離れに関係が見られず、Hölbling(2023)が蹴りで評価したのは股関節の開きでした。前屈の距離は自分の変化の記録にし、練習ではミットを低くして、脚を運ぶときの張りを別に確かめます。頭の高さという技の名前に合わせるために、痛みを伴う開脚を続ける必要はありません。
反動をつけず、ゆっくり伸ばせば安心ですか
ゆっくりという速度だけで続ける判断はしないほうがよいでしょう。Askling(2002)では、学生ダンサーが急に太ももの裏を痛めた場面として、開脚などのゆっくりした柔軟練習が多く挙げられました。反動をつけないことに加え、伸ばす程度やその場の痛みも見る必要があります。鋭い痛みが出たら、柔らかくなっている途中だと捉えて押し広げず、その動作を中止します。
昔の肉離れは、今は痛くなくても記録に入れますか
今の痛みと別に、以前に痛めた側や動作を記録に残す意味があります。Green(2020)では、過去の肉離れがその後のけがと関係し、とくに最近の肉離れも重要な項目でした。前屈が以前の距離に戻ったことと、高い蹴りを繰り返したときの状態は同じ情報ではありません。以前のけがの経過を添えることで、蹴った直後や翌朝の張りが、過去に痛めた場所と重なっているかを見直せます。