- 仙腸関節の痛みは、痛む位置だけで決めず、診察と複数の検査で検討するもの
- Laslett(2005)は検査の組み合わせを支持した一方、Saueressig(2021)は陽性だけで原因を確定する精度に問題を指摘
- Mirdamadi(2025)の選手の割合は、競技や診断基準が異なる研究をまとめた値
- Nejati(2019)では運動療法・手技・併用で改善したが、何もしない群との比較はない
- 自分の記録では痛みの強さと日常動作を別々に残し、練習の直後だけで判断しない
キックの後にお尻の上が痛む|仙腸関節の痛みの研究
駅のホームで立ち止まると、キックの練習後に気になり始めたお尻の上の痛みを、立つ位置を変えて確かめています。骨のくぼみの近くが痛むのは仙腸関節が原因で、運動を続ければ軽くなるのでしょうか。仙腸関節は痛みの候補ですが、場所や検査の陽性だけでは決まらず、運動療法の改善と蹴り続ける効果も別です。仙腸関節とは、背骨の下にある仙骨と、骨盤を作る腸骨をつなぐ関節です。
痛い場所に名前がつくと、そこを伸ばす、強く動かす、位置を戻すといった対処をすぐ試したくなります。しかし、痛みを誘う検査は原因を絞るための材料であり、骨の位置を測る検査とは目的が違います。また、運動療法の試験で使われたのは骨盤を動かす運動やストレッチなどで、ミットに向かって蹴る練習ではありません。検査で何を確かめたか、治療前から何が変わったか、別の方法よりよかったかを順に見ると、痛みの説明と運動の選び方を混同せずに済みます。まず押さえたいのは、検査が陽性だった人の原因を当てる力と、原因のある人を検査で拾う力は違うという点です。
要点
- 仙腸関節の痛みは、痛む位置だけで決めず、診察と複数の検査で検討するもの
- Laslett(2005)は検査の組み合わせを支持した一方、Saueressig(2021)は陽性だけで原因を確定する精度に問題を指摘
- Mirdamadi(2025)の選手の割合は、競技や診断基準が異なる研究をまとめた値
- Nejati(2019)では運動療法・手技・併用で改善したが、何もしない群との比較はない
- 自分の記録では痛みの強さと日常動作を別々に残し、練習の直後だけで判断しない
仙腸関節の痛みは、場所だけで決まるのか
お尻の上のくぼみを指して「ここが痛い」と説明することは、症状を伝える出発点になります。ただし、指した場所の下にある関節が、そのまま痛みの発生源だと決まるわけではありません。Szadek(2009)の系統的レビュー(条件を決めて関連する研究を集める方法)は、場所の説明だけでなく、痛みを誘う検査と関節への麻酔の注射による反応を照らし合わせた研究を検討しました。焦点は、体の表面のどこを指したかより、異なる確認方法の結果がどれだけ一致するかにあります。
Szadek(2009)が集めたのは18研究です。太ももを押し込む検査、骨盤を圧迫する検査、痛みを誘う検査が3つ以上陽性になる組み合わせには、仙腸関節が原因かを見分ける力が認められました。陽性とは、その検査で判断の条件を満たす反応が出たという意味で、この場合は普段の痛みが誘われることが中心です。検査の名前だけを覚えて自分で強く押すよりも、何を再現している検査なのかを理解するほうが、結果の説明を受ける助けになります。
このレビューでは診断オッズ比という、原因のある人とない人を検査が見分ける力を表す指標も使われました。Szadek(2009)では、太ももを押し込む検査が18.461、圧迫の検査が3.88、3つ以上の検査が陽性という組み合わせが17.16でした。これらは、痛みが軽くなる割合でも、検査が当たる確率そのものでもありません。さらに、基準にした注射の方法や、どれだけ痛みが減れば反応ありとするかが研究間で違い、著者は診断の確かな正解を置く難しさを指摘しています。
検査の感度と、陽性だった後の確からしさ
Laslett(2005)は、腰やお尻に痛みのある48人を対象に、理学療法士による検査と関節への麻酔の注射の結果を比べました。痛みを誘う6つの検査のうち3つ以上が陽性なら、感度は94%、特異度は78%でした。感度は、基準上その関節が原因とされた人を陽性として拾う割合で、特異度は、原因ではない人を陰性として扱う割合です。検査する側が比較先の結果を知らないようにした設計ですが、対象は専門外来へ紹介された患者で、単一施設の研究でした。
一方、Saueressig(2021)のメタ分析(複数の研究の結果をまとめて計算し直す方法)は、検査の組み合わせが陽性になった後の確からしさを検討しました。有病率、つまり検査前の集団に仙腸関節の痛みがある割合を20%と仮定すると、陽性後に仙腸関節が原因である確率は35%、陰性後は8%でした。陽性を原因の確定に使う精度は十分でないという結論で、証拠の確かさは非常に低いと評価されています。陰性は原因の候補から外す判断にある程度役立つ一方、陽性は他の所見と合わせて扱う結果です。
この食い違いは、検査が急に役立たなくなったという意味ではありません。Laslett(2005)の94%は「原因のある人を拾う割合」であり、Saueressig(2021)の35%は「陽性だった人に原因がある確率」で、分母が異なります。加えて、単独の専門外来の研究と、異なる基準を含む研究の統合という違いもあります。検査結果を聞くときには、「陽性だから決まり」と受け取るより、Saueressig(2021)が指摘した、陽性だけで原因を確定する精度の不足を押さえることが重要です。
選手に多いという数字は、初心者にも当てはまるか
キックで片脚に体重を預けた後に痛むと、蹴る運動に特有の問題だと考えがちです。競技をする人の調査はありますが、競技の種類も、痛みがある人だけを集めたかどうかもそろっていません。Mirdamadi(2025)は、さまざまな競技の選手2842人を含む研究をまとめました。対象の多くは男性で、仙腸関節の痛みだけでなく機能の不調も含めた集計です。
Mirdamadi(2025)で報告された平均割合は、選手全体で10.72%、腰痛のある選手で32.39%でした。後者は、初めから腰痛がある人を分母にした値なので、運動を始めた人が今後その割合で痛むという意味にはなりません。痛み・不調の判定方法が違えば、数えられる人の範囲も変わります。著者自身も研究間の違いと質の問題から、選手の正確な割合は報告できないと結論しています。
検査、頻度、治療は、それぞれ答えようとする問いが異なります。選手の中に痛む人がいたことは、蹴る動作が原因だという証明とは別で、検査の精度は治療の効き目も表しません。次の表では、各研究が比べた相手と対象を対応させています。
| よく言われること | 研究で得られた結果 | 比べた相手・基準 | 対象 |
|---|---|---|---|
| 検査で痛ければ原因が決まる | Saueressig(2021)は陽性だけで確定する精度の不足を指摘 | 原因を判定する基準と検査の組み合わせ | 仙腸関節の痛みが疑われる患者 |
| 選手に多いからキックが原因 | Mirdamadi(2025)は診断基準の違いが大きいと評価 | 研究ごとの痛み・不調の分類 | 多競技の、主に男性の選手 |
| 運動と手技を併用するほどよい | Nejati(2019)は最終評価で群間差なし | 運動療法、手技、両方の併用 | 仙腸関節の不調で腰やお尻が痛む患者 |
| 手技で痛みがはっきり減る | Trager(2024)は痛みへの効果を不確かと評価 | 他の理学療法や偽の手技 | 仙腸関節の痛みがある成人 |
運動療法と手技では、何が改善したのか
Nejati(2019)は、仙腸関節の不調による腰やお尻の痛みがある51人を、運動療法、手技、両方の組み合わせに分けた無作為化比較試験です。無作為化とは、くじ引きのような方法で組を分け、元の状態の偏りを小さくする仕組みです。運動療法には、自分で骨盤を動かす方法、ストレッチ、胴体を安定させる運動が含まれました。手技は施術者が手を使って関節に働きかける方法であり、読者が自分で再現する手順として扱うものではありません。
Nejati(2019)は、痛みと日常生活の不自由さを6・12・24週に評価しました。どの群にも改善があり、早い時点では手技、その後には運動療法の改善が目立ちましたが、24週では群の間に統計的に意味のある差がありませんでした。組み合わせた群が最後まで優れていたわけではなく、方法を重ねれば改善が大きくなるという結果ではありません。また、何もしない群を置いていないため、時間の経過による改善と治療による改善を分ける設計にはなっていません。
Trager(2024)は、成人421人を含む16の無作為化比較試験を集め、うち11試験を統合しました。他の理学療法や偽の手技に比べた手技の痛みへの標準化平均差(尺度の違う結果をそろえた効果の大きさ)は-0.88で、95%信頼区間(推定値の不確かさを示す幅)は-1.84〜0.08でした。この幅は差がない値をまたぎ、痛みの減少は統計的にはっきりしませんでした。一方、日常の不自由さには改善があり、痛みの点数と生活の動きやすさは同じ結果ではありません。Nejati(2019)の治療前後の改善と、Trager(2024)の別の対応に対する優位性は問いが異なり、後者では痛みへの証拠は非常に低い確かさでした。
痛みを押して練習する理由にはならない
運動療法の研究を読んで「動かしたほうがよい」と受け取ると、痛みが出るキックも繰り返すべきだと考えてしまうかもしれません。しかし、Nejati(2019)で評価されたのは治療として組まれた運動であり、蹴りの回数や打撃の強さを増やす試験ではありません。痛みのある動作を繰り返すことと、状態に合わせて運動を選ぶことでは、体に加わる負担が異なります。運動療法で改善したという結果を使って、痛い動作の継続を正当化するのは避けたいところです。
また、施術を受けて立ち上がりやすくなったことと、痛みが消えたことも同じではありません。Trager(2024)では、日常の不自由さに対する改善の確かさは低く、痛みへの効果の確かさは非常に低いという評価でした。施術の直後に動きが変わっても、強く蹴った翌朝まで同じ状態かを含めて評価する必要があります。手技の研究で生活の不自由さが改善したことは、関節の位置が戻ったことを測定した結果でもありません。
痛みが強まる動作や、脚のしびれを伴う状態で、原因を確かめようと自分で圧迫検査を繰り返すことは勧められません。Laslett(2005)の検査は、専門外来の患者に理学療法士が行い、別の判定方法と照合したものです。自分で押して同じ場所が痛かったという結果には、その研究と同じ検査条件も比較先もありません。診断の研究で扱った「普段の痛みが再現されるか」は、痛みを我慢して運動量を増やす目標ではなく、症状の原因を検討するための所見です。
自分の記録は2週間、評価はその場の感覚だけにしない
自分で行うのは診断のための押し込み検査ではなく、痛みと動作の経過をそろえて記録することです。最初の2週間は自分の記録の期間とし、3週目に記録を見返します。この期間で改善するという研究結果ではなく、書き忘れずに始めるための区切りです。Nejati(2019)が痛みと生活の不自由さを別々に、6・12・24週で評価した考え方を使い、短期の記録と長い経過をつなぎます。
- 毎朝と練習の後に、お尻の上の痛みを0〜10で書き、左右と指1本で場所を指せるかを添えます。0を痛みなし、10を想像する最も強い痛みとして、同じ目盛りを使います。Nejati(2019)が追った痛みの経過に対応する記録として、自分の2週間を通して続けます。
- 片脚立ち、階段、寝返り、長く座った後の立ち上がりで、実際の生活中に痛んだ動作を毎朝の欄に書きます。Nejati(2019)が痛みとは別に評価した日常の不自由さに対応させ、できたか、途中でやめたかも添えます。記録のために痛む動作を何度も試す必要はなく、脚のしびれ・発熱・夜間の痛みがあれば練習をやめます。
- 蹴る練習を再開する段階では、痛くない側を軸足にした場合も動作中に痛まない範囲にとどめ、翌朝の痛みが2以上増えたら蹴りを外します。パンチだけに替えても痛むなら練習をやめ、Nejati(2019)のように痛みと生活の不自由さの両方を記録します。この増え方は練習を見直すための目安で、研究が確定した安全の境目ではありません。
- 3週目には、練習後だけ痛むのか、翌朝や生活動作にも残るのかを、最初の2週間の記録で見返します。その後の経過は6週ごとにも振り返り、Nejati(2019)の評価時点である6・12・24週には痛みと日常動作を並べます。症状が強まる場合は予定日まで待たずに対応し、研究の評価間隔を痛みを我慢する期間にはしません。
よくある質問
お尻のくぼみを押すと痛いだけでも仙腸関節が原因ですか
押して痛む場所だけでは原因は決まりません。Szadek(2009)が検討したのは、痛みを誘う検査と、別の方法で判断した結果との一致です。さらに、その別の判定方法にも研究ごとの差があり、原因の判定自体に難しさがありました。指で示せる場所は症状を説明する手掛かりになりますが、自分で押した反応を専門の検査と同じ陽性として数えるものではありません。
検査で陽性と言われたら、関節がずれているのですか
痛みを誘う検査の陽性は、骨の位置のずれを直接測った結果ではありません。Laslett(2005)が照らし合わせたのは、検査で痛みが出ることと、関節への麻酔の注射に対する反応です。Saueressig(2021)も、検査の組み合わせだけで仙腸関節を原因と確定するには精度が足りないとしています。陽性という言葉を聞いたら、どの検査で普段の痛みが出たのか、他の診察所見とどう合わせたのかを確認する材料になります。
手技と運動療法を両方受けるほど早くよくなりますか
Nejati(2019)では、運動療法、手技、併用のどの群も改善しましたが、24週では群の間に意味のある差がありませんでした。併用の上乗せを前提にする結果ではなく、何もしない群も置かれていません。Trager(2024)では手技による日常の不自由さの改善と、痛みへの不確かな効果が別々に報告されています。方法の数より、痛みと日常動作のどちらに変化が出ているかを確かめることが大切です。
この記事の限界
仙腸関節の研究では比較の基準が異なり、診断では麻酔への反応、治療では運動や偽の手技などが使われています。選手の調査も男性が中心で、蹴る動作と仙腸関節の痛みを直接調べた研究は含まれていません。痛みが脚へ広がる、しびれる、夜も痛む、転んだ後から痛む場合は、練習をやめて整形外科を受診してください。いつから痛むか、どの蹴りや日常動作で出るか、転倒との前後関係を伝えると、原因を検討する材料になります。蹴る動作で片脚に負担がかかる一般の女性を追い、痛みの発生と練習を戻すまでの経過を同じ基準で評価する研究が求められます。
参考文献
- Szadek KM. Diagnostic validity of criteria for sacroiliac joint pain: a systematic review. J Pain. 2009;10(4):354-68.
- Laslett M. Diagnosis of sacroiliac joint pain: validity of individual provocation tests and composites of tests. Man Ther. 2005;10(3):207-18.
- Mirdamadi N. Prevalence and Risk Factors of Sacroiliac Joint Pain in Athletes: A Systematic Review and Proportional Meta-Analysis. Clin J Sport Med. 2025;35(4):514-525.
- Nejati P. Effectiveness of Exercise Therapy and Manipulation on Sacroiliac Joint Dysfunction: A Randomized Controlled Trial. Pain Physician. 2019;22(1):53-61.
- Saueressig T. Diagnostic Accuracy of Clusters of Pain Provocation Tests for Detecting Sacroiliac Joint Pain: Systematic Review With Meta-analysis. J Orthop Sports Phys Ther. 2021;51(9):422-431.
- Trager RJ. Efficacy of manual therapy for sacroiliac joint pain syndrome: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. J Man Manip Ther. 2024;32(6):561-572.
汗が落ちる溶岩の床の上で、最初のジャブを構えてみる
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よくある質問
お尻のくぼみを押すと痛いだけでも仙腸関節が原因ですか
押して痛む場所だけでは原因は決まりません。Szadek(2009)が検討したのは、痛みを誘う検査と、別の方法で判断した結果との一致です。さらに、その別の判定方法にも研究ごとの差があり、原因の判定自体に難しさがありました。指で示せる場所は症状を説明する手掛かりになりますが、自分で押した反応を専門の検査と同じ陽性として数えるものではありません。
検査で陽性と言われたら、関節がずれているのですか
痛みを誘う検査の陽性は、骨の位置のずれを直接測った結果ではありません。Laslett(2005)が照らし合わせたのは、検査で痛みが出ることと、関節への麻酔の注射に対する反応です。Saueressig(2021)も、検査の組み合わせだけで仙腸関節を原因と確定するには精度が足りないとしています。陽性という言葉を聞いたら、どの検査で普段の痛みが出たのか、他の診察所見とどう合わせたのかを確認する材料になります。
手技と運動療法を両方受けるほど早くよくなりますか
Nejati(2019)では、運動療法、手技、併用のどの群も改善しましたが、24週では群の間に意味のある差がありませんでした。併用の上乗せを前提にする結果ではなく、何もしない群も置かれていません。Trager(2024)では手技による日常の不自由さの改善と、痛みへの不確かな効果が別々に報告されています。方法の数より、痛みと日常動作のどちらに変化が出ているかを確かめることが大切です。