- Alves(2019)のメタ分析では、ニューキノロン系の使用とアキレス腱炎・断裂に関連がありました。
- Morales(2019)ではアキレス腱断裂の危険の上昇が60日続き、ステロイドの飲み薬との併用で関連が強まりました。
- Persson(2019)では増える断裂の件数は小さい一方、併用時には増加が大きくなりました。
- Mitrani-Gold(2024)の短期服用の女性の研究では、腱断裂の危険の上昇は他の研究より小さな値でした。
抗菌薬を飲んでいる間のキックとステップ|ニューキノロン系の薬とアキレス腱の研究
昼休みに抗菌薬の説明書を開くと、気になるのは今夜のキックボクシングの予定でした。飲んでいる間も、いつものように跳ぶステップや強い踏み込みを続けてよいのでしょうか。ニューキノロン系の抗菌薬では腱の障害との関連があり、服用中の練習量を増やす前に、薬の系統と併用薬を処方元で確かめることが大切です。 ニューキノロン系は、細菌の増殖を抑える抗菌薬の一群で、キノロン系とも呼ばれます。
気をつけたい部位は、ふくらはぎの筋肉とかかとの骨をつなぐアキレス腱です。研究では、腱の炎症と、腱が切れる断裂を別々に調べています。痛みがない日に練習へ行けるかという迷いに対しては、危険が何倍になったかに加え、実際にどれほど件数が増えたかも役立ちます。処方を受けた人の記録からは、服用との関連が強い時期や、併用薬によって危険が変わる様子が読み取れます。薬の選び方ではなく、服用の日付と足の症状を結びつけて、練習について相談する材料を整えます。
要点
- Alves(2019)のメタ分析では、ニューキノロン系の使用とアキレス腱炎・断裂に関連がありました。
- Morales(2019)ではアキレス腱断裂の危険の上昇が60日続き、ステロイドの飲み薬との併用で関連が強まりました。
- Persson(2019)では増える断裂の件数は小さい一方、併用時には増加が大きくなりました。
- Mitrani-Gold(2024)の短期服用の女性の研究では、腱断裂の危険の上昇は他の研究より小さな値でした。
ニューキノロンとアキレス腱の関連は、どのように調べられたか
「薬を飲むと腱が切れる」とだけ聞くと、服用する人の多くに起こるように感じられます。Alves(2019)は、薬の使用と腱の障害を追った観察研究を集め、メタ分析という方法で結果をまとめ直しました。観察研究は、研究者が薬を割り振るのではなく、実際の診療で処方された人の経過を調べる研究です。処方を受けた患者の記録から、使用の有無で障害の起こりやすさを比べ、年齢や併用薬による違いも分析しています。
Alves(2019)では、使用しない場合との比較で、アキレス腱断裂のオッズ比は2.52、95%信頼区間は1.81〜3.52でした。オッズ比は起こりやすさの比を表す指標で、信頼区間は推定値の不確かさの幅です。アキレス腱炎のオッズ比は3.95、95%信頼区間は3.11〜5.01でした。炎症と断裂は別の結果なので、炎症の値をそのまま「切れる危険」の倍率に置き換えると、読み違いになります。
別の方法でも関連は調べられています。Wise(2012)は英国の診療データを使い、障害を起こした人の処方を、同じ人の別の時期の処方と比べました。この方法では、生まれ持った体質など、時間がたっても大きく変わりにくい個人差の影響を小さくできます。キノロン系の使用とアキレス腱炎の関連はオッズ比4.3、95%信頼区間は3.2〜5.7で、ほかの抗菌薬では同様の増加が見られませんでした。
倍率が高いことと、増える件数が多いことは違う
危険の倍率は、比較相手からどれだけ離れたかを表します。もともとの出来事が少なければ、倍率が上がっても、増える件数は小さい場合があります。Persson(2019)は英国の処方データで、ニューキノロン系を使っている時期と使っていない時期を比べ、断裂の増加分を件数でも示しました。その結果、全ての部位を合わせた腱断裂の増加は1万人年あたり3.73件、95%信頼区間は2.08〜5.39件でした。
Persson(2019)のアキレス腱断裂だけの増加は、1万人年あたり2.91件、95%信頼区間は1.71〜4.11件でした。人年は、調べた人それぞれの観察期間を足し合わせた単位です。これは服用した人のうち何人が今回の処方で断裂するかを直接表す数字ではなく、観察した時間も含めた頻度です。Persson(2019)が小さいと評価したのは、この観察時間を含む単位で表した断裂の増加分です。
比較する研究と測定対象をそろえるため、下の表では指標の名前も分けて載せています。Morales(2019)は英国の診療データを使い、腱断裂のある人と条件をそろえた対照を比較した研究です。Persson(2019)の件数は、別の分析で得られた増加分であり、Morales(2019)の倍率から計算した値ではありません。
| 見る指標 | 研究の結果 | 比べた相手・対象 |
|---|---|---|
| アキレス腱断裂の相対的な危険 | Morales(2019):調整後の発生率比3.14、95%信頼区間2.11〜4.65 | 別系統の抗菌薬を処方された人も含む英国の診療集団で、現在の使用と非使用を比較 |
| 腱断裂全体の増加件数 | Persson(2019):1万人年あたり3.73件、95%信頼区間2.08〜5.39件 | 英国の処方集団で、使用中の時期と非使用の時期を比較 |
| アキレス腱断裂の増加件数 | Persson(2019):1万人年あたり2.91件、95%信頼区間1.71〜4.11件 | 同じ分析で、アキレス腱に部位を絞った結果 |
飲み始めと飲み終わりの間だけが注意する時期ではない
薬を飲み終えた日を、腱への影響も終わる日と考えるのは早計です。Stephenson(2013)の系統的レビューでは、関連する観察研究を集め、服用後の時期による違いを調べています。アキレス腱断裂との関連は、特に薬にさらされた後の最初の1か月に強く見られました。系統的レビューとは、あらかじめ決めた条件で研究を探して評価する方法で、ここで集められたのは診療の経過を調べた研究です。
Morales(2019)では、使用中のアキレス腱断裂の調整後の発生率比は3.14で、危険の上昇は60日続きました。調整後の発生率比は、年齢などの条件の違いを統計的に考慮して比べた、起こる頻度の倍率です。服用の時期だけでなく、積み重なった薬への曝露、つまり薬を使った量や期間も関連していました。服用を終えたかどうかだけを見るより、いつ飲み始め、いつ飲み終えたかという日付が重要になる結果です。
この時間の情報は、練習について話す際にも役立ちます。Morales(2019)の結果を手掛かりに、服用中から飲み終えて60日までを記録の範囲とすれば、後から痛みが出たときにも処方との前後関係をたどれます。この期間を過ぎた後の練習については、日付だけで決めず、足の状態を伝えて処方元で確かめます。Morales(2019)で危険と関係した条件には、服用時期に加えて薬への累積した曝露も含まれています。
ステロイドの飲み薬と年齢で、注意の重みが変わる
同じ系統の抗菌薬でも、服用している人の条件で関連の強さは変わります。Alves(2019)のまとめでは、高齢であることと、ステロイドを一緒に使うことが腱の障害に関わる追加の要因とされました。ステロイドは炎症などを抑える薬で、ここで特に問題になっているのは飲み薬との併用です。抗菌薬の名前だけを処方元に伝えるより、ほかに飲んでいる薬もまとめて示す必要があります。
Morales(2019)では、ステロイドの飲み薬とニューキノロン系が重なった場合、アキレス腱断裂の調整後の発生率比は19.36、95%信頼区間は7.78〜48.19でした。推定の幅は広いものの、併用する人で関連が大きくなる方向です。さらにPersson(2019)では、ステロイドだけを使う場合と比べ、両方を使用中の腱断裂全体の増加は1万人年あたり21.2件、95%信頼区間は11.3〜31.2件でした。倍率だけでなく件数でも併用の影響が現れたため、全体の平均が小さいことだけで併用時の心配を片づけるのは適切ではありません。
年齢の違いを調べたWise(2012)では、60歳を超える人のアキレス腱炎との関連が、それより若い人より強く見られました。以前と同じ練習ができた経験があっても、今回の薬や併用の条件が同じとは限りません。特に併用中の人や足に症状が出た人には、練習本数を増やして反応を試す進め方は向きません。Wise(2012)でも、ステロイドの飲み薬を使う人ほど、キノロン系とアキレス腱炎の結びつきが強い結果でした。
短い服用の女性では、危険の上昇はもっと小さかった
膀胱炎で短期間の処方を受けた女性が、広い診療集団の倍率だけで自分の危険を考えると、対象の違いを見落とします。Mitrani-Gold(2024)は、単純な膀胱炎などの尿路感染症で外来を受診した女性を対象に、短期間の抗菌薬の使用後を追いました。過去の保険請求データをたどる研究で、比較相手も同じような感染症に使う抗菌薬でした。病気と服用期間を絞って比較した点が、広い患者集団を含む研究との違いです。
Mitrani-Gold(2024)では、スルファメトキサゾール・トリメトプリムとの比較で、ニューキノロン系の腱断裂のハザード比は1.25、95%信頼区間は1.00〜1.57でした。ハザード比は、経過中の出来事の起こりやすさを比べる指標です。統計的にはぎりぎりの差で、Morales(2019)のアキレス腱断裂の発生率比3.14より小さい値でした。ただし、女性の短期服用で腱断裂を調べた結果と、別の診療集団でアキレス腱断裂を調べた結果では、対象も指標も一致しません。
この食い違いから、「どちらかの研究が間違い」と決める必要はありません。服用期間、感染症、比較する薬、断裂を数える部位が異なれば、見積もりも変わります。Persson(2019)は増える件数の小ささを示し、Mitrani-Gold(2024)は短期服用の女性に絞った際の比較を示しています。いずれも関連を否定した研究ではなく、後者でも比較した抗菌薬より腱断裂の危険は高い方向でした。
服用日と足の症状を結びつけて記録する手順
始める前に、薬の説明書やお薬手帳で、処方された抗菌薬の系統を確かめます。名前だけで判断しにくければ、処方した医師か薬剤師に、跳ぶステップや強い踏み込みを含む運動をしていることを伝えます。以下は、Morales(2019)の服用時期と併用薬の結果を手掛かりにした、相談材料を作るための記録です。記録する項目は、同研究で断裂の危険と関係していた服用時期と、ステロイドの飲み薬が重なる期間です。
服用中から飲み終えて60日まで、本数を残す
Morales(2019)で危険の上昇が60日続いたことを踏まえ、服用中と飲み終えてから60日は、練習ごとに跳ぶステップと強い踏み込みの本数を別々に書きます。練習量を増やさず、服用開始日と終了日も同じ記録に入れます。これから始める初心者なら、普段の本数がないまま試しに跳ぶのではなく、行う予定の動きを処方元へ伝える材料にします。休んだ日は休みと書き、練習の有無も日付からたどれる形にします。
毎朝の数歩で、痛みとこわばりを記す
毎朝起きて最初の数歩で感じる、かかとの上の痛みとこわばりを、それぞれ0〜10で記録します。この数字は自分の変化を見る物差しで、低い点なら跳んでよいという判定には使いません。Morales(2019)の時間的な関連に合わせ、服用中から飲み終えて60日まで、左右どちらかと腫れの有無を同じ欄に添えます。ふくらはぎを叩かれたような痛みや音がして、つま先立ちができないときは、その場で練習をやめて速やかに受診します。
併用薬は、症状の日付と一緒に示す
記録を始める日に、ステロイドの飲み薬を使っているかをお薬手帳で確かめ、処方した医師か薬剤師に伝えます。Morales(2019)が調べた併用の条件を落とさないよう、重なっていた期間を服用開始日・終了日と並べます。記録中に足の症状が出た場合には、その発生日も同じ紙や画面で示します。薬の調整は処方元で判断する事項であり、同研究では併用の有無がアキレス腱断裂の危険を大きく左右していました。
よくある質問
抗菌薬なら、どれもアキレス腱への影響は同じですか
研究の対象となったニューキノロン系と、抗菌薬全体は同じではありません。Wise(2012)では、キノロン系の使用に関連した腱の障害の増加が、ほかの抗菌薬では見られませんでした。Alves(2019)でも、同じ系統の中で薬の種類によって結果が異なりました。これは自分で代わりの薬を選ぶ根拠ではなく、処方された薬がどの系統で、併用薬との組み合わせをどう評価するかを処方元に確かめる材料です。
痛くなければ、普段どおりの本数で跳べますか
症状がないことだけで、普段の本数を続けられるとは判定できません。Morales(2019)が調べたのは、薬の使用時期と腱断裂の関連で、痛みのない運動者を本数別に分けた結果ではありません。今の痛みだけで判断するより、処方の時期と併用薬を示して運動内容を相談する方が、この研究で関連した条件を伝えられます。新しい痛みや腫れが出た場合は、同じ本数を続けて様子を見る前に整形外科で評価を受けます。
増える件数が少ないなら、気にしなくてもよいですか
Persson(2019)が示した増加件数の小ささは、倍率だけを見て過度に怖がらないために役立ちます。一方、同じ研究でもステロイドとの併用時には増える件数が大きくなりました。集団全体の平均が小さいことと、自分の薬の組み合わせを確かめる必要性は両立します。説明書と服用日、足の症状をそろえておくことは、平均の数字に埋もれやすい併用の条件を処方元へ伝える助けになります。
この記事の限界
ニューキノロンの根拠はMorales(2019)やMitrani-Gold(2024)を含め観察研究で、比較する抗菌薬や患者の病気が異なります。感染症そのものや活動量の違いが結果に影響した可能性も残ります。
かかとの上に痛みや腫れが出たら、処方した医師のいる内科と整形外科に、薬を飲み始めた日と症状が始まった日、痛む動作を伝えます。突然の痛みや音の後につま先立ちができない場合は、練習をやめて速やかに整形外科を受診する症状です。ミットやステップのような打撃系の運動で、服用中や服用後の練習量を変えることによって腱断裂をどれだけ減らせるかを調べた研究は見つかっていません。
参考文献
- Stephenson AL. Tendon Injury and Fluoroquinolone Use: A Systematic Review. Drug Saf. 2013;36(9):709-21.
- Alves C. Fluoroquinolones and the risk of tendon injury: a systematic review and meta-analysis. Eur J Clin Pharmacol. 2019;75(10):1431-1443.
- Morales DR. Relative and Absolute Risk of Tendon Rupture with Fluoroquinolone and Concomitant Fluoroquinolone/Corticosteroid Therapy: Population-Based Nested Case-Control Study. Clin Drug Investig. 2019;39(2):205-213.
- Wise BL. Impact of age, sex, obesity, and steroid use on quinolone-associated tendon disorders. Am J Med. 2012;125(12):1228.e23-1228.e28.
- Persson R. Clinical implications of the association between fluoroquinolones and tendon rupture: The magnitude of the effect with and without corticosteroids. Br J Clin Pharmacol. 2019;85(5):949-959.
- Mitrani-Gold FS. Risk of collagen-related disorders and neurological events among patients with uncomplicated urinary tract infection following short treatment with fluoroquinolones: a cohort study. Antimicrob Agents Chemother. 2024;68(12):e0069024.
汗が落ちる溶岩の床の上で、最初のジャブを構えてみる
- 向く人: 相手と打ち合わずに、ミットとサンドバッグで汗をかきたい人
- 向く人: 運動から離れていて、構えとフォームから教わり直したい人
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よくある質問
抗菌薬なら、どれもアキレス腱への影響は同じですか
研究の対象となったニューキノロン系と、抗菌薬全体は同じではありません。Wise(2012)では、キノロン系の使用に関連した腱の障害の増加が、ほかの抗菌薬では見られませんでした。Alves(2019)でも、同じ系統の中で薬の種類によって結果が異なりました。これは自分で代わりの薬を選ぶ根拠ではなく、処方された薬がどの系統で、併用薬との組み合わせをどう評価するかを処方元に確かめる材料です。
痛くなければ、普段どおりの本数で跳べますか
症状がないことだけで、普段の本数を続けられるとは判定できません。Morales(2019)が調べたのは、薬の使用時期と腱断裂の関連で、痛みのない運動者を本数別に分けた結果ではありません。今の痛みだけで判断するより、処方の時期と併用薬を示して運動内容を相談する方が、この研究で関連した条件を伝えられます。新しい痛みや腫れが出た場合は、同じ本数を続けて様子を見る前に整形外科で評価を受けます。
増える件数が少ないなら、気にしなくてもよいですか
Persson(2019)が示した増加件数の小ささは、倍率だけを見て過度に怖がらないために役立ちます。一方、同じ研究でもステロイドとの併用時には増える件数が大きくなりました。集団全体の平均が小さいことと、自分の薬の組み合わせを確かめる必要性は両立します。説明書と服用日、足の症状をそろえておくことは、平均の数字に埋もれやすい併用の条件を処方元へ伝える助けになります。