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公開:2026年9月11日/最終更新:2026年11月3日

キックボクシングで男性ホルモンは増えるか|運動とテストステロンの研究

仕事帰りに練習用のバッグを持ち直し、打撃の運動で男性ホルモンも増えるという話を思い出しました。パンチやキックを続ければ、筋肉がつきやすくなり、ふだんの元気も増すのでしょうか。キックボクシングで男性ホルモンが持続的に増えるという根拠は乏しく、運動直後の上昇も筋肉の伸びを示す目印にはなっていません。 男性ホルモンの一つであるテストステロンは女性にも少量あり、名前だけで男性専用の話と受け取ると、女性が運動を始めるときの不安とも混ざってしまいます。

この記事の要点
  • 打撃系の選手では、試合直後のテストステロンの上昇は小さく、統計的にははっきりしませんでした。
  • 運動不足でテストステロンが正常範囲の男性では、運動を続けても安静時の値はほぼ変わりませんでした。
  • 高齢男性の有酸素運動では小さな上昇を報告した研究もあり、年齢層や比較方法で結果が異なります。
  • 若い男性の筋トレでは、直後のホルモンの上がり方と、その後の筋肉・筋力の伸びに関係は見られませんでした。

キックボクシングで男性ホルモンは増えるか|運動とテストステロンの研究

仕事帰りに練習用のバッグを持ち直し、打撃の運動で男性ホルモンも増えるという話を思い出しました。パンチやキックを続ければ、筋肉がつきやすくなり、ふだんの元気も増すのでしょうか。キックボクシングで男性ホルモンが持続的に増えるという根拠は乏しく、運動直後の上昇も筋肉の伸びを示す目印にはなっていません。 男性ホルモンの一つであるテストステロンは女性にも少量あり、名前だけで男性専用の話と受け取ると、女性が運動を始めるときの不安とも混ざってしまいます。

運動とホルモンの話には、試合が終わった直後の反応、練習を続けた後の安静時の値、筋肉や筋力の変化という異なる測定が登場します。例えば、試合後に値が上向いた結果と、普段から高い状態が続く結果は、測っている時間も比べる相手も違います。さらに、筋肉が増えた人ほどホルモンも大きく上がったかを調べるには、同じ人の練習期間を通じた変化を追う必要があります。ボクササイズを始める目的を考えるときは、血液の値を上げる期待と、実際の練習で身につけたい動きとを結びつけすぎないことが大切です。

要点

  • 打撃系の選手では、試合直後のテストステロンの上昇は小さく、統計的にははっきりしませんでした。
  • 運動不足でテストステロンが正常範囲の男性では、運動を続けても安静時の値はほぼ変わりませんでした。
  • 高齢男性の有酸素運動では小さな上昇を報告した研究もあり、年齢層や比較方法で結果が異なります。
  • 若い男性の筋トレでは、直後のホルモンの上がり方と、その後の筋肉・筋力の伸びに関係は見られませんでした。

テストステロンと運動の関係は、測る時点で変わる

「運動で増える」という説明を読むとき、最初に確かめたいのは採血した場面です。練習や試合の直後に測れば、その場の負荷への反応を捉えますが、安静時の測定では運動を終えて落ち着いている状態を捉えます。Slimani(2018)は打撃系格闘技の試合前後を、Potter(2021)は運動を継続した後の安静時のテストステロンを調べています。どちらも運動に関係する研究でも、「打ち終わった今」と「普段の状態」への答えは別々です。

テストステロンの測定には、血中にある総量を見る方法と、たんぱく質に結合していない遊離テストステロンを見る方法があります。Potter(2021)の結論では、もともと値が正常範囲にある運動不足の男性について、総量にも遊離の値にも運動の明らかな効果は示されませんでした。一方、West(2012)が筋肉の伸びとの関係を調べたのは、筋トレ後に遊離テストステロンが一時的に上がる反応です。検査項目の名前が少し似ていても、普段の値を測った研究と、運動後の反応を測った研究を同じ結果として扱うと読み違えます。

もう一つ違うのは、ホルモンの数値を結果にした研究と、筋肉や筋力を結果にした研究です。筋肉がつきやすくなるという期待を評価するなら、後者で実際に筋肉が増えたか、力が伸びたかを確かめる必要があります。下の表は、同じ「増える」という言葉に含まれやすい期待を、測定と比較の単位に戻したものです。Morton(2016)では、筋トレを続けて筋肉と筋力が増えても、その伸びは直後のホルモンの上昇と結びつきませんでした。

よく言われること 研究で言えること 比べた相手・時点 対象
打撃で男性ホルモンが増える 試合直後の上昇は小さく有意ではない(Slimani、2018) 試合前と直後 打撃系格闘技の選手
続ければ普段の値も高まる 安静時の総量への効果はほぼない(Potter、2021) 運動する群と対照群 値が正常範囲の運動不足の男性
年長者でも運動の種類を問わず増える 有酸素・インターバルでは小さな上昇、筋トレでは変化なし(Hayes、2018) 開始前後や対照群 高齢男性
直後に増えた人ほど筋肉がつく 筋肉・筋力の伸びとの関係は見られない(Morton、2016) 同じ参加者の反応と継続後の変化 筋トレ経験のある若い男性

試合直後の反応は、テストステロンよりコルチゾールで明確

Slimani(2018)は、ボクシングやキックボクシングなど打撃系格闘技の試合前後を扱った研究を、系統的レビューとメタ分析でまとめました。系統的レビューは決めた基準で研究を集めて検討する方法で、メタ分析は複数の結果をまとめて計算し直す方法です。調べたのは競技の選手であり、本番の試合と模擬試合を含みます。一般の愛好者がミット打ちを続けた後の普段の値ではなく、試合という負荷への直後の反応が中心でした。

この打撃系選手の分析で、テストステロンの上昇は効果量0.47と小さく、統計的に有意ではありませんでした(Slimani、2018)。効果量は、異なる測定の変化の大きさを比べやすく表した値で、ホルモンが何倍になったかを示す数ではありません。同時に測ったコルチゾールは、ストレスへの反応に関わるホルモンで、こちらは効果量0.79の中程度の上昇でした。テストステロンもコルチゾールも、試合を挟んで測った値ですが、上昇の確かさは同じではなかったのです。

この結果を「試合でホルモンが活発になるから、元気が増す」と言い換えると、測定された内容から離れます。コルチゾールの上昇は、競技者の体が試合を負荷として受け取った反応として説明されており、元気や筋肉の増加そのものを測った値ではありません。また、有意ではないテストステロンの変化を、増加が実証されたように紹介すると、読者の期待が数字より先に進んでしまいます。Slimani(2018)がまとめたのは、公式戦でも模擬試合でもホルモン系にストレスがかかるという結果です。

続けた後の安静時の値は、研究によって結論が違う

Potter(2021)は、運動不足で健康とみられる男性421人を含む11本の無作為化比較試験をまとめています。無作為化比較試験とは、くじ引きのような方法で組を分けて比べる試験で、この分析では有酸素運動、筋トレ、その組み合わせを扱いました。対象者は19〜75歳で、もともとのテストステロンが正常範囲の男性です。運動する群と対照群を比べると、安静時の総テストステロンへの効果は標準化平均差0.00でした。

標準化平均差とは、測定のばらつきを使い、効果の大きさをそろえて比べる値です。Potter(2021)では、推定の不確かさの幅を示す95%信頼区間が-0.20〜0.20で、平均的な効果はほぼないという結果でした。運動の種類、年齢、体重によって効果が明確に違うという結果も出ていません。これは血中の値を指標にした結論であり、運動による変化のすべてをテストステロンの数値で代表させるものではありません。

一方、Hayes(2018)が高齢男性の研究をまとめると、有酸素運動の標準化平均差は0.398、強い運動と休みを交互に行うインターバル運動は0.283と、小さな上昇がありました。同じ分析の筋トレは-0.003で、明らかな変化はありませんでした。ただし、集めた22研究のうち無作為化比較試験は9本で、13本は対照群のない試験でした。Potter(2021)の無作為化比較試験だけの統合とは、年齢層も、運動以外の影響を除くための比較の置き方も異なります。

高齢男性での小さな上昇を省くと「運動しても全く変化しない」という説明に偏り、逆に上昇だけを取り上げると「続ければ増える」という説明に偏ります。とくに運動前後だけの比較では、同じ期間に運動しなかった人の値がどう動いたかという情報が抜けます。Hayes(2018)では測ったホルモンの種類によって結果もぶれており、有酸素運動とインターバル運動の研究数は少数でした。安静時の値については、正常範囲の男性をまとめたPotter(2021)のほぼ変化なしと、高齢男性を集めたHayes(2018)の小さな上昇が併存しています。

直後のホルモンの上昇は、筋肉が増える予報にならない

West(2012)は若い男性56人で、筋トレの途中に行った脚の運動へのホルモン反応と、その後の筋肉・筋力の伸びの関係を調べました。注目されたのは、その場で値が大きく上がる人ほど、練習を続けた結果も大きくなるかという対応です。遊離テストステロンの一時的な上昇は、除脂肪量や脚の筋力の伸びと関係しませんでした。除脂肪量とは体重から脂肪を除いた重さで、筋肉だけでなく骨や水分も含みます。

筋トレ経験のある若い男性49人を調べたMorton(2016)でも、同じ方向の結果が出ています。この試験では、軽い重さで回数を多くする組と、重い重さで回数を少なくする組に無作為に分け、12週の全身の筋トレを行いました。どちらの組でも筋肉と筋力は増えましたが、運動直後のテストステロンなどの上昇と、筋肉・筋力の伸びとの間に有意な関係はありませんでした。直後の値が大きく上がることを、練習の成果を得るための条件にはしていない試験です。

ここで否定されたのは、ホルモンが体に関わること全体ではなく、運動直後の上昇幅を使って筋トレの成果を予測する見方です。Morton(2016)の組分けは重さと回数の条件を比べるためのもので、テストステロンを増やす組と増やさない組を作ったわけではありません。ホルモンと成果については、同じ参加者の数値の対応を見た分析であり、West(2012)もその関係を調べています。筋肉の変化を評価する際に実際に追っていたのは、直後の上昇だけでなく、継続後に測った筋肉の大きさや筋力でした。

低い値のランナーを調べた結果から、練習量を考える

運動をたくさんする人なら値が高い、という単純な並び方をしない研究もあります。Hooper(2017)は、テストステロンが低い長距離ランナー9人と、運動をしていない男性8人を比べました。ランナーの平均値は9.2 nmol/L、運動していない男性は16.2 nmol/Lでした。nmol/Lは血液中の濃度を表す単位で、ランナー側では男性ホルモンの不足に伴う症状の点数も高くなっていました。

この研究の読みどころは、ランナー全体から無作為に選んだ比較ではなく、低い値を示すランナーを集めた点です。Hooper(2017)は同じ時点で両群を比較する横断研究であり、走り始める前から同じ人を追って、値が下がる過程を測った試験ではありません。したがって、この群の平均濃度を、健康のために運動を始める人が到達する値として扱うのは誤りです。運動をしている群にも、低い値と症状が併存する例があることを捉えた比較です。

Potter(2021)の運動不足で値が正常範囲の男性と、Hooper(2017)の低い値を示す長距離ランナーでは、参加時の状態から違っています。前者は運動を始めた場合の平均的な変化を、後者は特定の状態にある人と対照の人の違いを測っています。こうした対象の選び方を外して「運動すると増える」「運動すると減る」のどちらかにそろえると、原因と対象を取り違えます。Hooper(2017)の結果は低い値のランナーを選んだ小規模な比較であり、一般の練習者に起きる頻度を数えた研究ではありません。

自分の記録は8週間、筋肉の変化は練習内容と並べる

ホルモンの数値を予想する代わりに、練習と体調を同じ記録に残すと、負荷を増やした後の変化を具体的に見返せます。以下の8週間や0〜10の目盛りは、自分の記録を続けるための設定であり、ホルモンの異常を判定する基準ではありません。Morton(2016)が筋肉の変化を調べた条件は12週の全身の筋トレで、練習直後の反応と継続後の成果を別々に測っていました。記録でも、練習後に気分が上がったことと、日を重ねて動きや力が変わったことを別の欄に置きます。

  • 自分の記録の期間を8週間とし、練習した日の夜に疲れ・やる気・眠りの質をそれぞれ0〜10で書き、練習の日数と並べて週ごとに見返します。疲れは大きいほど強く、やる気と眠りの質は大きいほど良い、と最初に決めておきます。Morton(2016)が直後のホルモン反応と継続後の成果を別に測った形に合わせ、直後の気分の欄とは別に、練習内容と翌日までの体調の欄を設けます。
  • 練習量を増やした後に体重が2週続けて落ち、疲れが6以上の日が続く場合は、Hooper(2017)が低い値のランナーで指摘したエネルギー摂取不足の可能性を踏まえ、週ごとの体重・疲れの記録を見ながら食べる量と練習量の釣り合いを見直します。この目盛りは受診まで待ってよい境界ではなく、負荷を増やすのを止めて振り返るための目安です。性欲の低下、朝の勃起の減少、強いだるさが続くときは練習を減らして受診します。
  • 筋肉や力の変化は、Morton(2016)の12週の試験を参考に、12週ほど続けた練習の内容と並べて見ます。補強運動をしている人は、同じ種目の重さと回数を実施した日に書き、途中で種目や条件を変えた日も残します。ボクササイズと筋トレを併用した場合は内容を別々に書くと、Morton(2016)が全身の筋トレで評価した筋肉・筋力の変化と、自分の練習で比べたい項目を具体化できます。

よくある質問

練習後に元気が出たら、テストステロンが増えた印ですか

気分が上向いたという感覚だけでは、血中のテストステロンの変化を判定できません。Slimani(2018)の選手の試合前後の分析でも、テストステロンの上昇は統計的にはっきりせず、明確だったのはコルチゾールの反応でした。練習後の爽快感はその日の感想として残し、男性ホルモンが高くなったという検査結果に置き換えない扱いが適切です。

値が増えなければ、筋肉をつける練習は無駄ですか

直後のホルモンの上昇幅で、筋肉をつける練習の成果を決める必要はありません。Morton(2016)では若い男性の筋肉と筋力が増えた一方、その伸びと直後のホルモンの上昇との関係は見られませんでした。West(2012)でも遊離テストステロンと筋肉・筋力の伸びは結びつかず、筋肉が増えたかどうかは筋肉の測定で評価されていました。

女性も、男性ホルモンが増えることを心配すべきですか

女性にもテストステロンはありますが、男性で得られた数値を使って女性の変化を予告する根拠はありません。安静時の変化を扱うPotter(2021)や、筋肉の伸びを扱うMorton(2016)は男性を対象にしています。女性がキックボクシングを続けると男性ホルモンが増えて体が大きく変わる、と決めて運動の選択を狭める材料にはなっていません。

この記事の限界

ホルモンを比較する条件は、試合前後の選手、運動不足で値が正常範囲の男性、筋トレ経験のある若い男性などで異なり、気分の改善まで同じ物差しで追ったものではありません。だるさ・性欲の低下・気分の落ち込みが続く場合は、泌尿器科か内科で、始まった時期と練習量・体重の変化を伝えてください。朝の勃起が減った場合も、ほかの不調と合わせて伝えることが受診時の手掛かりになります。一般の愛好者が打撃の練習を数か月続けた場合の安静時の値や、女性の変化を追う試験は不足しています。若い男性の選手を中心とする直後の測定や、男性の筋トレで得た数値は、日常の楽しみとして打撃を始める女性や中高年の練習とは条件が離れています。

参考文献

  1. Slimani M. Hormonal responses to striking combat sports competition: a systematic review and meta-analysis. Biol Sport. 2018;35(2):121-136.
  2. Potter NJ. Effects of Exercise Training on Resting Testosterone Concentrations in Insufficiently Active Men: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Strength Cond Res. 2021;35(12):3521-3528.
  3. Hayes LD. Short-Term Exercise Training Inconsistently Influences Basal Testosterone in Older Men: A Systematic Review and Meta-Analysis. Front Physiol. 2018;9:1878.
  4. West DW. Associations of exercise-induced hormone profiles and gains in strength and hypertrophy in a large cohort after weight training. Eur J Appl Physiol. 2012;112(7):2693-702.
  5. Morton RW. Neither load nor systemic hormones determine resistance training-mediated hypertrophy or strength gains in resistance-trained young men. J Appl Physiol (1985). 2016;121(1):129-38.
  6. Hooper DR. The presence of symptoms of testosterone deficiency in the exercise-hypogonadal male condition and the role of nutrition. Eur J Appl Physiol. 2017;117(7):1349-1357.

汗が落ちる溶岩の床の上で、最初のジャブを構えてみる

  • 向く人: 相手と打ち合わずに、ミットとサンドバッグで汗をかきたい人
  • 向く人: 運動から離れていて、構えとフォームから教わり直したい人
  • 向かない人: スパーリングや試合で自分の強さを試したい人
  • 向かない人: 手首や肩、腰の痛みで医師から運動を止められている人

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よくある質問

練習後に元気が出たら、テストステロンが増えた印ですか

気分が上向いたという感覚だけでは、血中のテストステロンの変化を判定できません。Slimani(2018)の選手の試合前後の分析でも、テストステロンの上昇は統計的にはっきりせず、明確だったのはコルチゾールの反応でした。練習後の爽快感はその日の感想として残し、男性ホルモンが高くなったという検査結果に置き換えない扱いが適切です。

値が増えなければ、筋肉をつける練習は無駄ですか

直後のホルモンの上昇幅で、筋肉をつける練習の成果を決める必要はありません。Morton(2016)では若い男性の筋肉と筋力が増えた一方、その伸びと直後のホルモンの上昇との関係は見られませんでした。West(2012)でも遊離テストステロンと筋肉・筋力の伸びは結びつかず、筋肉が増えたかどうかは筋肉の測定で評価されていました。

女性も、男性ホルモンが増えることを心配すべきですか

女性にもテストステロンはありますが、男性で得られた数値を使って女性の変化を予告する根拠はありません。安静時の変化を扱うPotter(2021)や、筋肉の伸びを扱うMorton(2016)は男性を対象にしています。女性がキックボクシングを続けると男性ホルモンが増えて体が大きく変わる、と決めて運動の選択を狭める材料にはなっていません。