- アキレス腱の治療中、痛みを目安に走る・跳ぶ活動を続けた群と控えた群で、改善の度合いに差はありませんでした。
- 痛みを伴う運動の小さな短期効果を認めた分析がありますが、更新版では痛みを避ける運動に対する優位性がはっきりしませんでした。
- 運動直後の痛みと、日をまたいで残る痛みを同じ記録で追い、翌朝の悪化を練習量の見直しに使います。
- 新たな腫れ・熱・しびれ・夜も続く痛みは、我慢の範囲を広げる理由にはせず、練習を止めて診てもらう目安です。
痛みを抱えたままキックボクシングを続けてよいか|痛みを目安に練習量を決める研究
朝の布団で膝やかかとの痛みを感じると、今日のキックボクシングに向かう気持ちが定まりません。全部休むべきか迷う人に関わるのが、Silbernagel(2007)の『痛みを目安に走る・跳ぶ活動を治療中も続けたことによる、悪い影響は示されなかった』という結論です。長く続く痛みでは、症状を見ながら運動を続ける選択肢がありますが、痛みを我慢するほど良いわけではありません。 この研究の患者はアキレス腱の治療を受けながら動いており、痛みを無視して普段の練習を押し通したわけではないのです。
練習中に少し痛んだ日と、翌朝も痛みが強い日は、同じ「痛かった」という言葉だけでは見分けにくくなります。ミットを打てたかどうかに加え、前後の症状がどう動いたかを見ると、続け方を見直す材料が増えます。ここで扱う研究は、長く続く筋肉・関節・腱の痛みと運動の関係を調べたもので、けが直後の鋭い痛みや急な腫れ、しびれを抱えたまま練習する根拠にはなりません。休むか続けるかの判断では、痛みの点数だけでなく、治療中の運動という条件と、練習後から翌朝への変化が重要になります。
要点
- アキレス腱の治療中、痛みを目安に走る・跳ぶ活動を続けた群と控えた群で、改善の度合いに差はありませんでした。
- 痛みを伴う運動の小さな短期効果を認めた分析がありますが、更新版では痛みを避ける運動に対する優位性がはっきりしませんでした。
- 運動直後の痛みと、日をまたいで残る痛みを同じ記録で追い、翌朝の悪化を練習量の見直しに使います。
- 新たな腫れ・熱・しびれ・夜も続く痛みは、我慢の範囲を広げる理由にはせず、練習を止めて診てもらう目安です。
痛みがあっても運動を続けてよいかは、比較した条件で変わる
「痛いなら動かさないほうがよい」と考える一方で、休むほど動きにくくなりそうで不安になる人もいるでしょう。Silbernagel(2007)は、アキレス腱症という、かかとの上の腱に痛みや機能の低下が続く状態の患者38人を調べました。無作為化比較試験とは、くじ引きのように群を分けて結果を比べる方法で、この試験では走る・跳ぶ活動を続ける群と、治療の始めにそれらをやめる群を設けています。続ける群は痛みを目安に活動を調整し、両群とも同じ筋力の運動を行いました。
Silbernagel(2007)では、症状や活動のしやすさをまとめた点数が、活動を続ける群で開始時の57から12か月後の85へ改善しました。ただし、活動をやめる群でも改善しており、群の間で改善の度合いに差はありませんでした。ここで答えが出たのは、治療の運動に加えて走ったり跳んだりする活動を、痛みを見ながら残した場合の経過です。何も治療せず打ち続ける場合や、休む群が体を全く動かさない場合との比較ではありません。
| よく言われること | 研究で得られた結果 | 比べた相手 | 対象・出典 |
|---|---|---|---|
| 痛みがある間は運動を全部やめるべき | 走る・跳ぶ活動を続けても改善の度合いに差なし | その活動を控え、同じ筋力の運動をした群 | アキレス腱症の患者・Silbernagel(2007) |
| 痛みを出したほうが運動は効く | 短期だけ小さな利点 | 痛みの出ない運動 | 長く続く筋肉・関節の痛み・Smith(2017) |
| 痛みを許す方法のほうが長期も良い | 短期から長期まで優劣は不明瞭 | 痛みを伴わない運動 | 慢性の筋肉・関節の痛みがある成人・Tran(2025) |
痛みを許す運動の小さな利点は、更新版では明瞭でない
Smith(2017)は、長く続く筋肉や関節の痛みがある人で、痛みを許す運動と痛みの出ない運動を比べた7試験、385人の結果をまとめました。こうしたメタ分析は、複数の研究の結果を集め、全体の差を計算し直す方法です。短期の痛みでは、痛みを許す運動に小さな利点があり、効果量は-0.27でした。これは研究どうしで効果の大きさを比べるための値で、自分の痛みの点数がそのまま同じだけ下がるという意味ではありません。
一方、Tran(2025)は、その後の試験を加えた16試験のメタ分析で、短期・中期・長期のいずれも痛みや不自由さに明瞭な差を認めませんでした。対象は慢性の筋肉・関節の痛みがある成人で、痛みを伴う運動と伴わない運動を比べています。すべての試験に結果をゆがめる偏りの危険が高く、証拠の確かさは非常に低い〜低いとされました。差の推定にも幅があり、どちらが優れているかという結論は不確かでした。
古い分析で利点が出たことと、更新版で優位性がはっきりしなかったことは、並べて読む必要があります。Smith(2017)の利点は短期の痛みに限られ、中・長期の痛みや動き・生活の不自由さでは差がありませんでした。Tran(2025)は対象となる試験を増やし、痛みだけでなく不自由さなど本人が答える結果も評価しています。両者を合わせると、運動中の痛みを全て排除しなくても改善は起こりうる一方、わざと痛みを出す方法のほうが良いという支持は弱いのです。
直後の痛みの強まりと、その後の経過を別々に追う
運動後に痛みが強まると、それだけで練習が失敗だったように感じがちです。Sandal(2016)は、膝か股関節の痛みが続く中高年に、神経筋の運動を8週間行ってもらい、毎回の前後の痛みを記録しました。神経筋の運動とは、筋肉を働かせるだけでなく、姿勢や動きの調整も練習する運動です。運動直後の痛みの強まりは、回を重ねるごとに小さくなり、関節の痛みの点数も開始時の3.6から終了時の2.6へ下がりました。
このSandal(2016)の研究で注目したいのは、開始時と終了時だけでなく、運動をするたびに症状を追った点です。直後の痛みが一時的に強まることと、全体として痛みが軽くなることは、同じ経過の中で起きていました。毎回の痛みを記録すれば、直後の強まりが次第に小さくなるのか、逆に残りやすくなるのかを見渡せます。ただし比べる群のない研究なので、点数の低下を運動だけによる効果と決めることはできません。
キックボクシングに置き換えると、終了直後の印象だけでなく、次に起きた朝の状態も残す意味があります。朝に痛みがあるという事実に加え、前の練習前と比べて強いか、普段からある程度かを同じ物差しで書くと、振り返りが具体的になります。直後には打てたものの翌朝に症状が強まるなら、その場での達成感だけを次回の本数の根拠にしないという使い方です。記録の発想の土台となるSandal(2016)の結果は、神経筋の運動を繰り返す中で、直後の痛みの強まりが小さくなったという経過です。
動くことへの怖さと、回復した力は同じ指標ではない
痛みが残ると、動かすことでまた悪くするのではないかという怖さも生まれます。Silbernagel(2011)は、運動だけで治療したアキレス腱症の患者を追跡し、27人、80%が症状と機能の両方で回復したと報告しました。また、動くことへの恐れが強い人ほど、かかとを上げる動作で測った働きの戻りが悪く、その相関は-0.590でした。相関とは値どうしの結び付きで、この負の値は、恐れが強いほど働きの回復が小さい方向の関係を表しています。
この追跡は、怖さを減らす治療を加えた群と加えない群の比較ではありません。Silbernagel(2011)の関係だけで、怖さを押し込めて動けば力が戻ると結論づけることはできません。痛みの訴えが少なくなったかと、実際に動けるようになったかは別に測られており、本人の感覚だけで機能の回復を置き換えてはいけません。怖さを理由に責めるより、何が怖く、どの動作が難しいかを具体的な症状や動作と並べるほうが、この研究の測った内容に対応します。
膝のお皿の下の腱に痛みが続く膝蓋腱症については、Sprague(2021)が、痛みを目安に運動を調整する群と、痛む運動をやめる群を比べています。集まったのは15人で、目的は方法を実行できるかを確かめることでした。痛みに合わせた活動の調整は実行可能とされましたが、効き目の差を確かめた試験ではありません。痛みを目安にする運動療法でも、アキレス腱の比較試験と膝の予備試験では、答えられる問いの段階が違います。
痛みの目安を使う前に、対象となる症状を確かめる
「痛みは全て悪いものではない」という言葉は、運動中に起きた異変を無視する意味ではありません。Silbernagel(2007)の患者はアキレス腱症の治療中で、筋力の運動を共通して行いながら、走る・跳ぶ活動を調整していました。Smith(2017)とTran(2025)が比べたのも、長く続く筋肉や関節の痛みに対する運動です。急にひねった、打った瞬間に鋭く痛んだという出来事を、その慢性的な症状と同じ扱いにするのは適切ではありません。
同じ部位でも、以前からある痛みと、新しく現れた腫れやしびれは、記録の欄を分けて残します。腫れ・熱・しびれ・夜も続く痛みが出た場合は、その日の練習を中止し、練習で耐えられるかを試すより受診を優先します。とくに、けが直後の鋭い痛みを点数に直して許容範囲を探す人は、この続け方の対象になりません。痛みの強さだけで症状の性質を判定しないことが、治療中の慢性の痛みを扱ったSilbernagel(2007)の試験と、新たなけがを混同しないための前提です。
すでに運動の制限がある人は、痛みが軽い日も、その制限を記録の点数で上書きしないようにします。練習量を減らすことと、運動を全てやめることの間には、行う動作を変える選択もあります。Silbernagel(2007)の比較でも、走る・跳ぶ活動をやめた群は、共通の筋力の運動までやめたわけではありませんでした。休む対象を具体的に決めるという点では参考になりますが、打撃の回数や強さの許容値を決めた試験ではありません。
練習前・直後・翌朝をつなぐ記録の手順
ここからは、すでに運動を続ける方針があり、新たなけがの兆候がない人が、症状の経過を確かめる記録方法です。Sandal(2016)の運動期間に合わせて8週間を記録の区切りにし、練習の直前・直後・翌朝の痛みを0〜10で書きます。この0〜10は自分の記録の物差しで、研究が決めた許容の数ではなく、特定の点数以下なら打ってよいという線は設けません。期間の終わりを待って異変を判断するのではなく、練習ごとの変化を次の練習に反映させます。
練習ごとに同じ部位と時点を記入する
Sandal(2016)が運動の前後を追ったように、練習前と直後には、痛む場所を言葉で添えて同じ欄に点数を書きます。翌朝も同じ場所の痛みを記入し、別の場所に痛みが出たら混ぜずに追記します。行った動作と本数も横に置けば、症状の変化と実際に行った量を見比べられます。痛みが出た日だけでなく出なかった日も書くことで、運動前後を通して追うというSandal(2016)の記録の特徴を取り入れられます。
日曜に、痛みの強まりの幅を見比べる
Sandal(2016)では、運動の回を重ねると直後の痛みの強まりが小さくなりました。この経過を参考に、毎週日曜には練習前と直後の点数を並べ、強まりの幅が前の週より小さいかを確かめます。あわせて翌朝の点数を見て、練習前より強い日が続くなら、次回は行う動作を明記したうえで本数を減らします。減らした後も同じ欄に本数と翌朝の痛みを書き、神経筋の運動で観察されたような、直後の強まりが小さくなる傾向があるかを追います。
痛みが小さい日も、増やすことを目的にしない
Silbernagel(2007)の活動継続群は、治療の運動と痛みに応じた活動の調整を組み合わせていました。その条件を参考に、次の練習では予定の本数と実際に行った本数を残し、痛みが軽かったという理由だけで予定を超えない形にします。少なく終えた日は、翌朝の痛みがどうだったかも記入して、続けられる量を探す材料にします。痛みを出して量を増やすこと自体の利点は、痛みを伴う運動と伴わない運動を比べたTran(2025)の分析では明瞭ではありませんでした。
よくある質問
練習中の痛みが軽ければ、いつもの本数を続けてよいですか
軽いという感覚だけで、普段の本数を続ける判断にはなりません。痛みを目安に活動を続けた研究では、治療の運動も行われており、点数だけを見て自由に練習したわけではありません。練習前・直後・翌朝を同じ物差しで追い、翌朝の悪化が続く場合は本数を減らす材料にします。急な腫れやしびれなど、前にはなかった症状は、点数の大小とは別に練習を止める目安です。
痛みの出ない運動では効果が弱くなりますか
痛みを出さなければ効果が弱い、と考える根拠は強くありません。Smith(2017)では痛みを許す運動に小さな短期の利点がありましたが、中・長期の痛みや生活の不自由さに差はありませんでした。Tran(2025)の更新版では、短期も含め優位性が明瞭ではありません。痛みの出ない形で行える運動を、効き目が足りないと判断して、わざと痛む形へ変える必要はありません。
記録が良くなれば、打撃の練習に戻れると判断できますか
痛みの記録は症状の経過を見る材料であり、打撃への復帰を判定する検査ではありません。アキレス腱の追跡でも、症状と実際の機能は別に評価されていました。練習の中には踏み込む、支える、打つなど異なる動作があるので、どの動作で症状が出たかも記録に残します。点数が下がったという理由だけで、休んでいた動作や強さまで一度に元へ戻す判断は避けます。
この記事の限界
痛みを目安にした活動継続の研究は、治療中のアキレス腱症や、膝・股関節などに長く続く痛みがある人を主に扱っています。比較試験は小さく、比べる群のない記録も含まれ、更新版のメタ分析でも証拠の確かさは低いと評価されています。
腫れ・熱・しびれ・夜も続く痛みが現れた場合は練習を止め、整形外科で痛む場所、始まった時期、練習の翌朝の変化を伝えてください。症状の記録と行った動作・本数を持参すると、いつもの痛みから何が変わったかを説明できます。アキレス腱と膝の治療中に得られた結果を、ミットへの衝撃や踏み込みを伴う打撃練習全般にそのまま広げるのは早いと言えます。
参考文献
- Silbernagel KG. Continued sports activity, using a pain-monitoring model, during rehabilitation in patients with Achilles tendinopathy: a randomized controlled study. Am J Sports Med. 2007;35(6):897-906.
- Smith BE. Should exercises be painful in the management of chronic musculoskeletal pain? A systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2017;51(23):1679-1687.
- Sandal LF. Pain trajectory and exercise-induced pain flares during 8 weeks of neuromuscular exercise in individuals with knee and hip pain. Osteoarthritis Cartilage. 2016;24(4):589-592.
- Silbernagel KG. The majority of patients with Achilles tendinopathy recover fully when treated with exercise alone: a 5-year follow-up. Am J Sports Med. 2011;39(3):607-613.
- Tran I. Effectiveness of Painful Versus Nonpainful Exercise on Pain Intensity, Disability, and Other Patient-Reported Outcomes in Adults With Chronic Musculoskeletal Pain: An Updated Systematic Review With Meta-Analysis. J Orthop Sports Phys Ther. 2025;55(8):1-11.
- Sprague AL. Pain-guided activity modification during treatment for patellar tendinopathy: a feasibility and pilot randomized clinical trial. Pilot Feasibility Stud. 2021;7(1):58.
汗が落ちる溶岩の床の上で、最初のジャブを構えてみる
- 向く人: 相手と打ち合わずに、ミットとサンドバッグで汗をかきたい人
- 向く人: 運動から離れていて、構えとフォームから教わり直したい人
- 向かない人: スパーリングや試合で自分の強さを試したい人
- 向かない人: 手首や肩、腰の痛みで医師から運動を止められている人
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よくある質問
練習中の痛みが軽ければ、いつもの本数を続けてよいですか
軽いという感覚だけで、普段の本数を続ける判断にはなりません。痛みを目安に活動を続けた研究では、治療の運動も行われており、点数だけを見て自由に練習したわけではありません。練習前・直後・翌朝を同じ物差しで追い、翌朝の悪化が続く場合は本数を減らす材料にします。急な腫れやしびれなど、前にはなかった症状は、点数の大小とは別に練習を止める目安です。
痛みの出ない運動では効果が弱くなりますか
痛みを出さなければ効果が弱い、と考える根拠は強くありません。Smith(2017)では痛みを許す運動に小さな短期の利点がありましたが、中・長期の痛みや生活の不自由さに差はありませんでした。Tran(2025)の更新版では、短期も含め優位性が明瞭ではありません。痛みの出ない形で行える運動を、効き目が足りないと判断して、わざと痛む形へ変える必要はありません。
記録が良くなれば、打撃の練習に戻れると判断できますか
痛みの記録は症状の経過を見る材料であり、打撃への復帰を判定する検査ではありません。アキレス腱の追跡でも、症状と実際の機能は別に評価されていました。練習の中には踏み込む、支える、打つなど異なる動作があるので、どの動作で症状が出たかも記録に残します。点数が下がったという理由だけで、休んでいた動作や強さまで一度に元へ戻す判断は避けます。