- Xu(2024)のアッパーの研究では、選手の体幹と腕の動きが拳の最大速度に関わりました。
- Schmidt(2007)の模型では、横に曲げる動きとひねりを組み合わせると、椎間板の線維の伸びが最も大きくなりました。
- Veres(2010)の羊の標本では、ひねりの影響は裂け目の種類によって逆向きになりました。
- Smith(2018)とWatson(2023)のゴルフの研究のまとめは、スイングの形の悪さを腰痛の原因とする説を支持していません。
アッパーを打つと腰が痛む初心者へ|下から突き上げるパンチと体のひねりの研究
朝の布団から体を起こそうとして腰が痛むと、昨日のパンチの感覚を思い返さずにはいられません。膝を少し沈めてから下から上へ突き上げるパンチ、アッパーを続けたことが、腰の痛みにつながったのかが気になります。Xu(2024)が選手の動きを13の指標で比べた研究は速さを扱っており、アッパーのひねりが初心者の腰痛の原因になるかは未解明です。「体をひねって打つ」という説明だけで、痛む場所や傷めた組織まで決めることはできません。
アッパーに関係する研究には、実際のパンチを撮影したもの、腰の模型や動物の標本に力を加えたもの、体をひねるゴルファーを調べたものがあります。模型では組み合わせた動きで負荷が集まる一方、人のスイングの特徴と腰痛の関係は研究のまとめで支持されていません。この食い違いをたどると、組織が壊れる条件と、練習した翌朝に人が痛みを感じる条件の違いがわかります。ミットやシャドーボクシングで覚えたアッパーを続ける際には、拳の速さとは別に、打つ本数と直後・翌朝の症状を扱う必要があります。
要点
- Xu(2024)のアッパーの研究では、選手の体幹と腕の動きが拳の最大速度に関わりました。
- Schmidt(2007)の模型では、横に曲げる動きとひねりを組み合わせると、椎間板の線維の伸びが最も大きくなりました。
- Veres(2010)の羊の標本では、ひねりの影響は裂け目の種類によって逆向きになりました。
- Smith(2018)とWatson(2023)のゴルフの研究のまとめは、スイングの形の悪さを腰痛の原因とする説を支持していません。
アッパー ボクシングの研究で測られたのは拳の速さ
アッパーは下から上へ拳を運ぶため、まっすぐ前へ打つストレートとは腕や胴体の動き方が異なります。Xu(2024)は、ボクシング選手20人と、散打という中国の打撃競技の選手20人のパンチを高速カメラで撮影しました。体の動きを立体的に追う方法で比べた13の指標のうち、ストレートでは6つ、アッパーでは4つに競技間の差がありました。これは、同じ名前のパンチにも競技による動きの違いがあるという結果です。
この研究では、体幹、つまり腕や脚を除いた胴体と、腕の動きが拳の最大速度に大きく関わりました。Xu(2024)のアッパーでは、ボクシングと散打のどちらでも、肩を回す速さが拳の最大速度に関係していました。拳だけを見ているとわかりにくい、胴体から腕にかけての動きも、速さを説明する材料になっています。ミットに当たる音や拳の見た目の速さだけでなく、全身の動作を測った点にこの研究の特徴があります。
ただし、速いパンチの特徴を見つける測定と、腰を傷める条件を見つける測定は目的が異なります。腰椎という腰の背骨にかかる力、椎間板という骨と骨の間にある組織の変形、練習後の痛みは、この動作解析の評価項目に入っていません。初心者が下から突き上げるときに腰だけを大きく動かすべきか、膝を沈める深さをどうするかという処方も、この結果からは決まりません。Xu(2024)の対象は競技者で、調べた結果は体幹・腕の動きとパンチの最大速度との関係です。
ひねりと曲げを重ねると模型の中で何が起きるか
「ひねりながら曲げると腰に負担が集まる」という説明には、組織の力学を調べた研究が背景にあります。Schmidt(2007)は、腰の骨と椎間板を細かく分けて力の伝わり方を計算する、有限要素モデルという方法を使いました。前に曲げる、横に曲げる、ひねるといった動きを単独で加えた場合と、組み合わせた場合を比べています。人がパンチを打つ映像から痛みを判定した研究ではなく、条件をそろえた模型の計算です。
Schmidt(2007)では、横に曲げる動きとひねりの組み合わせで、椎間板の線維のひずみが最も大きくなりました。ひずみとは、もとの長さに対してどれだけ伸びたり変形したりしたかを表します。次に大きかったのは、ひねりと前屈、またはひねりと後屈を組み合わせた条件でした。負荷は椎間板の後ろ側の外寄りに集まり、その部分が壊れやすくなる可能性を著者は挙げています。
この結果をアッパーに結びつけるとき、比較の中心になるのは「下から打つ」という名前ではなく、胴体をどちらへ曲げながら回しているかです。前へ倒すことと横へ倒すことを同じ動きとして扱うと、模型で負荷が大きかった条件を取り違えます。また、拳が上がる方向と腰が動く方向は、別々に測る必要があります。Schmidt(2007)で比較されたのは、筋肉の働きを含まない腰の模型に、曲げとひねりの力を組み合わせて加えた条件でした。
羊の標本ではひねりが逆の作用も示した
組織が実際に壊れる過程を調べたのが、Veres(2010)の羊の腰椎を使った実験です。30個の標本を、2度ひねり、7度前へ曲げた姿勢に置いて、椎間板の中心部に圧力を加えました。実験を完了した25個のうち、17個では椎体の端にある板状の部分が破れ、8個では椎間板が壊れました。椎体は背骨の骨の本体に当たり、端の板は骨と椎間板の境目を作る部分です。
Veres(2010)の重要な点は、ひねりの作用が、壊れ方によって逆になったことです。軟骨でできた端の板を巻き込む裂け目は、前屈にひねりを加えると、より低い内圧で生じました。一方、端の板を巻き込まない裂け目に対しては、ひねりによって椎間板の壁がむしろ抵抗しやすくなっていました。「ひねった標本が壊れた」という部分だけを抜き出すと、同じ実験で見られた反対の作用を落としてしまいます。
この実験の数は、アッパーを練習した人のうち何人が傷めるかという発生率ではありません。標本を決まった姿勢に固定し、内部に圧力を加えて壊れ方を調べる手続きであり、人が自分で動きを調整しながらミットを打つ場面とは異なります。実験の角度を、練習で許されるひねりや前屈の角度として使うこともできません。Veres(2010)は、前屈とひねりを組み合わせた同じ条件でも、端の板を含む損傷と含まない損傷で抵抗の変化が異なると報告しています。
人の痛みはスイングの形だけでは説明できない
人の動きと痛みを比べる材料には、ゴルフの研究があります。Lindsay(2002)は、腰痛のある男性プロゴルファー6人と、腰痛のない6人の背骨の動きを比較しました。振り下ろしで胴体を前へ曲げる速さは、痛みのない人で痛みのある人の2倍を超えていました。少なくともこの比較では、曲げる動きが速い側に腰痛が多いという並びにはなっていません。
Cole(2014)は、腰痛のあるゴルファー12人と、症状のない15人を立体的な動作解析で比べました。取り上げたのは、ひねる速さと横への傾きを組み合わせた「クランチ・ファクター」という指標です。ひねりと横曲げの重なりを表す考え方には力学上のもっともらしさがあるものの、その指標は腰痛のある人とない人を十分に見分けられませんでした。指標の最大値だけでなく、最大になる時機にも両群で差がありませんでした。
| ひねりと腰痛の仮説 | 組織と動作の測定結果 | 加えた負荷・痛みの有無 | 模型・標本・競技者 |
|---|---|---|---|
| 曲げながらひねると負荷が集まる | 組み合わせた力で線維の伸びが増加(Schmidt、2007) | 単独の動きと複合した動き | 腰の計算モデル |
| ひねりは組織を壊れやすくする | 裂け目の種類によって促進と抵抗の両面(Veres、2010) | 前屈にひねりを加えた条件と先行実験 | 羊の腰椎標本 |
| 速く曲げる人ほど腰が痛む | 痛みのない人の方が曲げる速さは大きい(Lindsay、2002) | 腰痛の有無 | 男性プロゴルファー |
| ひねりと横曲げの指標で痛みを見分けられる | 指標による判別は不十分(Cole、2014) | 腰痛の有無 | ゴルファー |
動きの違いが痛みの原因とは限らない理由
個別の比較を広く見直したSmith(2018)は、ゴルファーの腰痛に関する19研究をまとめました。系統的レビューという、決めた条件で論文を集めて評価する方法に加え、複数の結果をまとめて計算するメタ分析を用いています。年齢や体重、過去の腰痛といった個人の特徴との関連が挙がる一方、スイングの特徴と腰痛の発生との関係は支持されませんでした。模型で力が集まるという説明が、そのまま人の痛みを見分ける結果には結びつかなかったのです。
Smith(2018)が集めた研究のうち、人を先に調べ、その後の経過を追う前向き研究は2本でした。ほかには、痛む人と痛まない人を比べる研究や、ある時点で動作と症状を測る研究が含まれていました。すでに痛みがある時点の動きには、痛むために速さや動く範囲を変えた結果も混ざります。先に動きが変わってから腰痛が起きたのか、腰痛の後で動きが変わったのかを見分けるには、痛む前からの測定が必要です。
Watson(2023)の系統的レビューでも、スイング技術の悪さと腰痛を結びつける確かな証拠は得られていませんでした。腰を曲げる速さや、ひねりの負荷など、関連の候補は挙がりましたが、採られた研究の質は低く、結果も食い違っていました。アッパーの翌朝に痛んだ初心者にとっては、見た目の形だけで「腰を壊した」と決める根拠の弱さがここにあります。Watson(2023)が扱ったのはゴルフの動作で、時間を追って原因を確かめる前向き研究が欠けていました。
本数と打ち方をそろえて自分の経過を残す
アッパーの記録では、Xu(2024)が拳の速さと関連づけた体幹と腕の動きを、練習した形を区別する手がかりにします。以下の2週間は自分の記録の期間で、研究が効果や安全を確かめた練習期間ではありません。本数や痛みの目盛りも、同じ条件で自分の経過を残すための取り決めです。痛みを出して動きを比べる課題ではなく、症状が出たところで記録を終える使い方にします。
- 本数と直後・翌朝をそろえる。 2週間、アッパーは1ラウンドあたり左右10本までとし、実際に打った本数と、直後・翌朝の腰の痛みを0〜10で書きます。0を痛みなし、10を考えられる最も強い痛みとして、その日の胴体と腕の使い方も同じ欄に残します。Xu(2024)が体幹と腕の動きを測ったことを手がかりに、拳の手応えだけで終わらせず、どこを動かしたと感じたかを書き添えます。
- すでに習った打ち方を別の日として書く。 膝を沈めて脚から打つ日と、上体だけをひねって打った日は分け、左右10本までの実施数と直後の痛みを0〜10で記録します。Xu(2024)の体幹・腕と速さの関係を参考にした動作の分類であり、どちらの打ち方が腰痛を減らすかを試した研究ではありません。上体だけをひねる形を新たに強く試す必要はなく、途中で腰が痛めば比較を打ち切って、その形と症状を記します。
- 翌朝の値でアッパーを休む日を決める。 翌朝の痛みが3以上の日はアッパーを休み、痛みの出ない範囲でジャブとストレートだけにします。Cole(2014)が痛みの有無を動作と照合したように、休む日にも腰の痛みを0〜10で残し、打った日だけの記録にしないようにします。脚にしびれが走る、咳やくしゃみで腰に響くときは、別のパンチへ切り替えるのではなく練習をやめます。
記録を見返す際も、パンチの速さを増やせた日と、腰の症状が少なかった日は別の評価にします。同じ本数でも症状が違うなら、打ち方の欄と直後・翌朝の欄を並べることで、痛んだ場面を具体的に示せます。一方、速さの評価を症状の評価の代わりにはせず、Xu(2024)が示した体幹・腕と最大速度の関係と、練習後の腰の経過をそれぞれ記載します。
よくある質問
下から突き上げると椎間板が傷むのですか
Schmidt(2007)の模型では、ひねりと曲げを重ねたときに、椎間板の後ろ側の外寄りへ負荷が集まりました。Veres(2010)の標本では、ひねりが損傷を促す場合と、壁の抵抗を高める場合の両方がありました。どちらも組織に力を加えた研究であり、パンチの名前から損傷を決める検査ではありません。アッパーの動作を調べたXu(2024)の評価対象は、選手の動きと拳の速さです。
痛みが出たのは打ち方が下手だからですか
痛みだけで技術の良し悪しは決まりません。Watson(2023)は、体をひねって打つゴルフの研究をまとめても、悪いスイング技術と腰痛を結ぶ確かな証拠は得られなかったとしています。痛みが動きを変えた可能性もあるため、すでに痛む人の姿勢だけを見て原因を決めるのは早計です。Smith(2018)のまとめでは、スイングの特徴よりも年齢・体重・過去の腰痛といった個人の特徴との関連が挙がっています。
脚から打てば腰への負担は減りますか
Xu(2024)は体幹と腕が拳の最大速度に関わると報告しましたが、脚から打つ方法に変えて腰痛が減るかを試したものではありません。速さに関係する動きと、痛みを減らす方法を同じ答えにするのは避ける必要があります。練習の記録では、膝を沈めた日と上体中心だった日を区別して、症状が出た時点も残します。研究で得られた結論は、競技者の体幹・腕の動きがパンチの最大速度に関係するという範囲です。
この記事の限界
アッパーの検討に用いた測定の中心は選手の拳の速度、模型や羊の組織の変形、ゴルファーの動作であり、初心者のアッパーによる腰痛を直接追った研究はありません。組織に加えた力の実験と人の痛みの観察では、結果の意味も実際の練習への当てはめ方も異なります。腰から脚にしびれや痛みが走る、咳やくしゃみで腰に響く、朝の痛みが2週間たっても引かない場合は、整形外科で症状を確かめます。その際は、どのパンチの後から、いつ痛み始めたかと、打った本数の記録を伝えてください。下から突き上げるパンチを習い始めた大人について、打ち方と本数、腰痛の出現から回復までを長く追う研究が望まれます。
参考文献
- Xu Q. A comparative analysis of punching in boxing and sanda: kinematic differences based on the cross and uppercut. Front Sports Act Living. 2024;6:1441470.
- Schmidt H. Intradiscal pressure, shear strain, and fiber strain in the intervertebral disc under combined loading. Spine (Phila Pa 1976). 2007;32(7):748-55.
- Veres SP. The influence of torsion on disc herniation when combined with flexion. Eur Spine J. 2010;19(9):1468-78.
- Lindsay D. Comparison of spine motion in elite golfers with and without low back pain. J Sports Sci. 2002;20(8):599-605.
- Smith JA. Risk Factors Associated With Low Back Pain in Golfers: A Systematic Review and Meta-analysis. Sports Health. 2018;10(6):538-546.
- Cole MH. The crunch factor’s role in golf-related low back pain. Spine J. 2014;14(5):799-807.
- Watson M. Biomechanical parameters of the golf swing associated with lower back pain: A systematic review. J Sports Sci. 2023;41(24):2236-2250.
汗が落ちる溶岩の床の上で、最初のジャブを構えてみる
- 向く人: 相手と打ち合わずに、ミットとサンドバッグで汗をかきたい人
- 向く人: 運動から離れていて、構えとフォームから教わり直したい人
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よくある質問
下から突き上げると椎間板が傷むのですか
Schmidt(2007)の模型では、ひねりと曲げを重ねたときに、椎間板の後ろ側の外寄りへ負荷が集まりました。Veres(2010)の標本では、ひねりが損傷を促す場合と、壁の抵抗を高める場合の両方がありました。どちらも組織に力を加えた研究であり、パンチの名前から損傷を決める検査ではありません。アッパーの動作を調べたXu(2024)の評価対象は、選手の動きと拳の速さです。
痛みが出たのは打ち方が下手だからですか
痛みだけで技術の良し悪しは決まりません。Watson(2023)は、体をひねって打つゴルフの研究をまとめても、悪いスイング技術と腰痛を結ぶ確かな証拠は得られなかったとしています。痛みが動きを変えた可能性もあるため、すでに痛む人の姿勢だけを見て原因を決めるのは早計です。Smith(2018)のまとめでは、スイングの特徴よりも年齢・体重・過去の腰痛といった個人の特徴との関連が挙がっています。
脚から打てば腰への負担は減りますか
Xu(2024)は体幹と腕が拳の最大速度に関わると報告しましたが、脚から打つ方法に変えて腰痛が減るかを試したものではありません。速さに関係する動きと、痛みを減らす方法を同じ答えにするのは避ける必要があります。練習の記録では、膝を沈めた日と上体中心だった日を区別して、症状が出た時点も残します。研究で得られた結論は、競技者の体幹・腕の動きがパンチの最大速度に関係するという範囲です。