- ロシアンフックは肘を高く上げ、上から振り下ろすように打つフックです。
- 腕の高さやひねりで肩峰下のすき間は変わりますが、距離の変化と痛みの原因は同じではありません。
- すき間を広げる手術は、関節内を見るだけの手術に比べ、痛みへの上乗せの利益を示しませんでした。
- 肩の姿勢の実験は、健康な男性や頭上で腕を使う選手、遺体が対象です。
- 練習量と翌日の肩の状態を記録し、腕を上げる途中の痛みや夜間の痛みが出る場合は打つのをやめます。
肘を高く上げるロシアンフックは肩に悪いか|腕を上げたパンチと肩の挟み込みの研究
職場の机でマウスへ手を伸ばしたとき、昨日のパンチ練習を思い出すほど肩の外側が重い朝です。肘を高く上げて打った場面が浮かび、その高さが肩に悪かったのかと、机に置いた腕を見直します。肘を高くする姿勢は肩のすき間を変えますが、その変化だけでロシアンフックが肩を傷めるとは決められません。 腕の位置を測る実験と、痛みのある患者を追う試験では、確かめていることが異なるためです。
肩の説明で耳にする「挟み込み」は、腱が骨の下で押されるという仕組みを指します。骨と腱の距離を見れば原因までわかりそうですが、すき間を広げる手術の比較では、その説明だけでは捉えきれない結果が出ています。ボクササイズで必要なのは、肩の図から危険な技を決めることよりも、どの姿勢を誰で測った結果なのかを知ることです。以下では、打ち合いをしないミットやサンドバッグへの練習を前提に、肩の角度、痛み、実際のけがの記録を順に確かめます。
要点
- ロシアンフックは肘を高く上げ、上から振り下ろすように打つフックです。
- 腕の高さやひねりで肩峰下のすき間は変わりますが、距離の変化と痛みの原因は同じではありません。
- すき間を広げる手術は、関節内を見るだけの手術に比べ、痛みへの上乗せの利益を示しませんでした。
- 肩の姿勢の実験は、健康な男性や頭上で腕を使う選手、遺体が対象です。
- 練習量と翌日の肩の状態を記録し、腕を上げる途中の痛みや夜間の痛みが出る場合は打つのをやめます。
ロシアンフックの肘の高さと「挟み込み」の意味
ロシアンフックは、肘を高く上げて、上から振り下ろすように拳を運ぶフックです。横から弧を描くパンチの中でも、肘が上がる局面が肩への心配につながります。肩峰下とは、肩の骨の出っ張りである肩峰の下のすき間をいい、インピンジメントは腕を上げたときに腱が挟まれるという説明です。腱は筋肉の力を骨へ伝える組織で、肩では腕を支えながら動かす役割を持っています。
この説明には、姿勢が変わると骨と腱の位置関係も変わるという観察が土台にあります。Lawrence(2020)の文献レビュー、つまり関連する研究を集めた総説では、腕を上げる角度が肩峰下の近さに影響する点は一貫していました。腕を前寄りに上げるか横寄りに上げるかという向きも影響しましたが、上げる角度ほど大きな影響ではありませんでした。肩甲骨の動きや腕のひねりについては、研究によって影響の大きさだけでなく向きも異なりました。
ここで、外から見える肘の高さは姿勢の手掛かりになりますが、腱にかかる力をそのまま表示するものではありません。肩甲骨を含めた骨の動きと、上腕そのものの向きによって、同じように見える高さでも内部の位置関係が変わります。すき間の広さを測る研究では、腕を上げる条件をそろえて比べています。Lawrence(2020)がまとめた研究の共通点も、技の名前より、腕を上げた角度によってすき間が変化することでした。
同じ高さでも、腕のひねりと重りで距離が変わる
Longo(2017)は、症状のない男性25人を対象に、重りを持つ場合と持たない場合の肩峰下を超音波で測りました。超音波は体の内側を画像にして観察する方法で、この実験では姿勢ごとのすき間の広さを比べています。重りは4 kgで、腕を90度に上げた姿勢でも、外へひねった場合とひねらない場合では結果が異なりました。重りを持つ条件では、外へひねった姿勢のすき間が、ひねらない姿勢や研究で比較した別の姿勢より広くなっていました。
重りのない条件でも、Longo(2017)では腕を90度に上げてひねらない姿勢のすき間が、外へひねった姿勢などより狭くなりました。姿勢による影響の指標である効果量はη2で0.72でしたが、これは肩を傷める確率を表す値ではありません。比較した条件の違いが、測定した距離の違いにどれほど関わったかを示す統計上の指標です。対象は健康な男性の静止姿勢であり、ミットへ拳を当てる瞬間の衝撃や痛みの発生を測ったものではありません。
この結果から、腕を外へひねる動きをパンチへ足せば肩を守れる、と手順を作るのは早計です。静止した腕に重りがかかる条件と、拳が動いて標的に当たる条件では、腕に加わる力の向きが違います。Longo(2017)で距離が広くなった姿勢は、測定のために選ばれた比較条件です。さらにLawrence(2020)の総説では、腕のひねりの影響は研究間でそろっておらず、特定のひねり方を痛み予防の答えとする結論にはなっていません。
腱を痛めた選手と遺体の観察で見えたこと
Leong(2016)は、頭上で腕を使う競技の選手66人について、腱板の腱障害がある33人と健康な33人を比べました。腱板は肩の関節を支える筋肉の腱が集まった部分で、腱障害はそこに痛みなどの問題がある状態を指します。腕を0度から30度に上げる間のすき間の減少は、腱障害のある選手で0.44 mm、健康な選手で-0.06 mmでした。後者の負の値は、平均では狭まる方向ではなかったことを表しています。
同じLeong(2016)では、この減少量のばらつきを表す標準偏差が、腱障害のある選手で1.22 mm、健康な選手で1.41 mmでした。平均値に違いがあっても、それぞれの集団の中には個人差があるという結果です。この研究は、ある時点の状態を比べる横断研究で、健康な肩が狭まり、その後に痛くなるまでを追跡した試験ではありません。肩甲骨を支える僧帽筋の中部と下部の筋力低下も、すき間の減少と関連していました。
Hughes(2012)は、防腐処置を施した遺体の肩9体を使い、姿勢によって腱が押される様子を調べました。腕を横に上げて内側へひねる姿勢では、腱板の一部である棘上筋の腱が、肩の上方にある靱帯から受ける圧が高くなっていました。肘を上げたパンチに似た位置関係を考える材料ですが、遺体では生きた人のように筋肉が働いて姿勢を調整しません。この観察の結論は、肩の姿勢によって押されやすい腱の場所が変わるというものです。
すき間を広げても痛みへの利益は増えなかった
「狭いから痛むのなら、広げれば痛みが減るはずだ」という予想を、患者の治療で確かめた試験があります。Paavola(2018)は、肩のインピンジメント症候群に合う症状を持つ210人を対象に、すき間を広げる手術と、関節鏡で内部を見るだけの手術などを比べました。関節鏡は関節内に入れる小さなカメラで、内部を見るだけの方法は、すき間を広げる処置の効果を調べるための偽の手術に当たります。割り当てを無作為にすることで、もともとの患者の違いが結果へ偏って入りにくくしています。
Paavola(2018)では、24か月後にすき間を広げる手術の上乗せの利益は認められませんでした。安静時の痛みの点数の群間差は-4.6で、95%信頼区間は-11.3〜2.1でした。信頼区間は差の推定に伴う不確かさの幅で、差がない値も含んでいます。腕を動かしたときの痛みでも、群間差は-9.0、信頼区間は-18.1〜0.2で、すき間を広げる手術を支持する結果にはなりませんでした。
Beard(2018)も、肩峰下の痛みがある313人を、すき間を広げる手術、関節鏡だけの手術、治療しない群に分けました。6か月後の肩の痛みや働きを評価する点数は、手術の群どうしで差がありませんでした。治療しない群に比べると手術の群の結果は良かったものの、その差は臨床的に重要な大きさではありませんでした。割り当てられた手術を実際には受けなかった患者がいたという弱さもありますが、骨を削って広げる処置を追加する利益は示されませんでした。
| 肩のすき間と痛みの説明 | 姿勢実験・手術試験の結果 | 比較した処置や姿勢 | 肩の状態と対象者 |
|---|---|---|---|
| 腕を高くするとすき間が狭くなる | 距離は高さに加え、ひねりや重りでも変化した(Longo、2017) | 重りの有無と肩の姿勢 | 症状のない男性 |
| 腱を痛めた肩では狭まり方が違う | 上げ始めのすき間の減少が大きかった(Leong、2016) | 健康な選手 | 頭上で腕を使う競技の選手 |
| すき間を広げれば痛みが改善する | 広げる処置の上乗せの利益は示されなかった(Paavola、2018;Beard、2018) | 関節鏡で内部を見るだけの手術 | 肩の痛みのある患者 |
けがの集計で肩が上位にないことの意味
肩のすき間の実験とは別に、競技で実際に起きたけがを集めた研究もあります。Bromley(2018)は、五輪の格闘技選手を追った研究を一定の基準で集める系統的レビューを行いました。ボクシングで多いけがの部位は頭・顔が45.8%、手首が12.0%、腰が7.8%でした。肩は、このボクシングの主要部位として挙げられていませんでした。
ここで示されたBromley(2018)の割合は、集計されたけがの部位の内訳です。ボクササイズへ参加した人が、その割合でけがをするという意味ではありません。頭や顔の打撃を受ける競技の記録では、ミットを打つだけの練習とは、数えられるけがの内容が変わります。著者らは、けがや病気のデータの集め方に合意が足りず、格闘技全体の予防策を作るうえで制約になっていると述べています。
一方、肩が上位にないという結果を、痛む肩で高いフックを続ける理由に使うのも適切ではありません。体のどこにけがが多いかという集計と、特定の動作で今の肩に症状が出るかという問題では、見ている単位が違います。腕を上げる途中で痛みが出る人や、夜に痛みで目が覚める人には、痛みを確かめるために高い位置へ何度も打つ練習は向きません。Leong(2016)が比較した腱障害のある選手でも、すき間の変化は、肘が高くなる前の腕の上げ始めに表れていました。
肘の高さと翌日の重さを記録する手順
練習を見直す際は、肩の中の距離を推測するより、実際に行った動きと症状を対応させる記録を作ります。自分の記録の期間は2週間とし、ロシアンフックは1ラウンドあたり10発までにします。この期間と本数は研究で確かめられた安全な量ではなく、練習内容を記録しやすくするための目安です。記録する条件には、Leong(2016)が腕を上げる角度によってすき間を比べた点と、Longo(2017)が重りの有無を比べた点を取り入れます。
高さを変えた日を同じ欄へ混ぜない
数値に加えて、症状が出る場面を残す
記録では、外側の重さと、腕を動かしたときの痛みを別の欄にします。痛みも自分用の0〜10で残し、4以上ならその日のロシアンフックを休むという中止の目安にします。この4は診断の境目ではなく、症状を押して本数をこなさないための自分の基準であり、それより小さくても腕を横から上げる途中で痛む、夜に肩が痛んで目が覚める場合は打つのをやめます。Paavola(2018)が安静時と腕を動かしたときの痛みを分けて評価したように、点数とともに痛む場面を残すと、休んでいる間の症状と動作中の症状を取り違えずに記録できます。
よくある質問
肘を肩より低くすれば、肩の痛みを防げますか
肘の高さだけで、痛みの予防が決まるという結果にはなっていません。Leong(2016)では、腱障害のある選手で腕を上げ始めたときのすき間の減少が大きく、症状と位置関係の違いは高い姿勢だけの話ではありませんでした。低くすれば痛みが減る人の記録には意味がありますが、それは本人の動作と症状の対応です。研究が示すのは角度による距離の違いであり、高さを制限して初心者のけがを減らしたという結果ではありません。
すき間が狭いと聞いたら、手術を考えるべきですか
すき間の狭さだけで手術の必要性を判断する根拠にはなりません。Paavola(2018)とBeard(2018)の試験では、すき間を広げる処置に、内部を見るだけの手術を上回る利益は示されませんでした。これはすべての肩の病気や手術をまとめた結果ではなく、肩峰下の痛みを対象にした比較です。痛みの出方や腕の働きを含めた評価が必要で、研究では骨を削る処置の上乗せの効果が問われています。
痛くなければ、高いフックを増やしてもよいですか
痛みがないことと、練習量を増やした後も同じ状態が続くことは別です。Longo(2017)は健康な男性を測りましたが、静止姿勢の距離を比べた実験で、パンチの本数を増やす試験ではありませんでした。自分の記録では練習時の感覚に加え、翌日の肩の外側の重さも同じ条件で比べます。健康な肩で観察された結果も、腕のひねりと重りによってすき間が変化するという範囲のものです。
この記事の限界
肩の挟み込みを調べた対象は健康な男性、頭上で腕を使う選手、遺体の肩、肩峰下に痛みがある患者にわかれ、運動を始めた女性のロシアンフックを測った集団ではありません。腕を横から上げる途中で痛む、夜間に肩が痛む、力が入らない場合は、打つ練習を止めて整形外科で状態を確かめてください。その際は、いつから症状があり、どのパンチの後に出たか、肘をどの高さまで上げたかを伝えます。姿勢の実験が扱う距離と、手術の試験が扱う患者の痛みは異なる指標で、すき間の狭まりだけでは痛みの原因を説明しきれません。肘を高く上げたフックを習う成人で、打つ量と腕の姿勢を記録しながら肩のけがを長く追った研究は、ここで検討した文献にはまだ一つもありません。
参考文献
- Longo S. Ultrasound evaluation of the subacromial space in healthy subjects performing three different positions of shoulder abduction in both loaded and unloaded conditions. Phys Ther Sport. 2017;23:105-112.
- Lawrence RL. Shoulder kinematics impact subacromial proximities: a review of the literature. Braz J Phys Ther. 2020;24(3):219-230.
- Leong HT. Reduction of the subacromial space in athletes with and without rotator cuff tendinopathy and its association with the strength of scapular muscles. J Sci Med Sport. 2016;19(12):970-974.
- Hughes PC. Measurement of subacromial impingement of the rotator cuff. J Sci Med Sport. 2012;15(1):2-7.
- Bromley SJ. A systematic review of prospective epidemiological research into injury and illness in Olympic combat sport. Br J Sports Med. 2018;52(1):8-16.
- Paavola M. Subacromial decompression versus diagnostic arthroscopy for shoulder impingement: randomised, placebo surgery controlled clinical trial. BMJ. 2018;362:k2860.
- Beard DJ. Arthroscopic subacromial decompression for subacromial shoulder pain (CSAW): a multicentre, pragmatic, parallel group, placebo-controlled, three-group, randomised surgical trial. Lancet. 2018;391(10118):329-338.
汗が落ちる溶岩の床の上で、最初のジャブを構えてみる
- 向く人: 相手と打ち合わずに、ミットとサンドバッグで汗をかきたい人
- 向く人: 運動から離れていて、構えとフォームから教わり直したい人
- 向かない人: スパーリングや試合で自分の強さを試したい人
- 向かない人: 手首や肩、腰の痛みで医師から運動を止められている人
このサイトはオンザショア立川店の運営者が制作しています。オンザショア立川店は立川駅から徒歩1分で、床は溶岩プレートです。
よくある質問
肘を肩より低くすれば、肩の痛みを防げますか
肘の高さだけで、痛みの予防が決まるという結果にはなっていません。Leong(2016)では、腱障害のある選手で腕を上げ始めたときのすき間の減少が大きく、症状と位置関係の違いは高い姿勢だけの話ではありませんでした。低くすれば痛みが減る人の記録には意味がありますが、それは本人の動作と症状の対応です。研究が示すのは角度による距離の違いであり、高さを制限して初心者のけがを減らしたという結果ではありません。
すき間が狭いと聞いたら、手術を考えるべきですか
すき間の狭さだけで手術の必要性を判断する根拠にはなりません。Paavola(2018)とBeard(2018)の試験では、すき間を広げる処置に、内部を見るだけの手術を上回る利益は示されませんでした。これはすべての肩の病気や手術をまとめた結果ではなく、肩峰下の痛みを対象にした比較です。痛みの出方や腕の働きを含めた評価が必要で、研究では骨を削る処置の上乗せの効果が問われています。
痛くなければ、高いフックを増やしてもよいですか
痛みがないことと、練習量を増やした後も同じ状態が続くことは別です。Longo(2017)は健康な男性を測りましたが、静止姿勢の距離を比べた実験で、パンチの本数を増やす試験ではありませんでした。自分の記録では練習時の感覚に加え、翌日の肩の外側の重さも同じ条件で比べます。健康な肩で観察された結果も、腕のひねりと重りによってすき間が変化するという範囲のものです。